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「おーい亮、ここのバリサクのリズムって4分音符刻み?」


「ああ。バスクラは2分か」


「そうだよ。不動先生がどっちかに合わせろって」


「この4分打ちもテンポが悪い、裏8分にしないか。藤原、お前はここを4分にして」


「あー、いいねぇ了解」


「分かった。あ、丸藤、あとでチューナーを貸してくれないか? 電池が切れててさ」


時を遡ること小1、2時間。
場所は変わって吹奏楽の乗り込むバスである。各々演奏内容の最終確認や楽譜や選手名の確認をするこの車内のなかで、和やかとは言えない異質な空間があった。


(はぁ…………いづらい)


御伽と海馬ふたりが座る、一番運転席に近い右前の席はなんともきまずい雰囲気を醸していた。

先程からちらりともこちらを窺わない海馬は、御伽の目に大層不機嫌に映った。昨日のことをまだ気にしているのだろうかと思い、万丈目とジャックは離したのだが…効果なしだったのだろうか。

居心地悪そうに肩を狭める御伽はやっとの思いで言葉を捻り出した。

「…海馬くん、今日は頑張ろうね」
と当たり障りのない会話でこの空気を和らげようとしたのだが。


! 貴様、いたのか!!
俺の前ですら完全に気配を消したその力量は褒めざるをえない」

酷すぎるよ!!


そう、海馬は不機嫌なのではなく、ただ単に御伽の存在に気づいていなかっただけだった。さすがは綺麗な背景、その能力は伊達じゃない。



「あーほっとしたよ…海馬くん、まだあの二人のこと気にしてるのかと」

「ふぅん…あの程度の雑魚、俺の栄光のロードに踏み入ることさえできぬわ」

「そうなのかい?」

結構3人似てる気がするけどね、という言葉を御伽は飲み込んだ。余計な争いは生まないに限る。


「まあ、万丈目くんの隣は吹雪さんが付いてるし、アトラスくんには部長を付けたから多分大丈夫だと思うよ」


「ふぅん、背景にしてはなかなか上出来の采配だ。奴より部長の才があるのではないか」

「い、いやぁ…」

ねぇ…地の文にしてまで言うことかなって思うけど、なんか今日の海馬くんおかしくないかい?
いや、絶対おかしいよね!?
いつもなら「その程度でつけあがるな背景」とか「50歩100歩とはこの事だな背景」とかけなす事しか知らないような人なのにさ。ほら…昨日のあの怒りっぷり見たでしょ?
何かあるなこれは。間違いないよ。


僕の長い下積み経験(皆の言う背景ってやつだよ!! 皆の観察ぐらいしかすることないんだよ!!)によると、この反応はモクバくんに関することだという結果だった。
ふたりにしちゃ珍しいけど…喧嘩でもしたのかな?


「海馬くん…僕でいいなら相談に乗るよ」

「何っ!? 貴様っ、読心術などという非ぃ科学的な力さえも身につけているのか」

違うよ。海馬くん様子がおかしいから…モクバくんのことじゃないとそこまで動揺しないでしょ」


海馬くんは納得したようで、いつものようにふぅんと呟くと視線を下に落としながら話しはじめた――


**

つい昨日の夜の話だ。

俺はいつものようにKCに帰宅し、そしていつものように大量に溜まった書類を持ってきた磯野をはり倒しモクバの元に全速☆前進したのだ。


「瀬人さmぐほぁっ

モクバァアアア!!  無事かぁあああ!!

「兄サマお帰り! 演奏どうだった?」

「ふぅん…この俺より上手いサックス奏者などおるまいといったところか」

「そ、そっか。さすが兄サマ…だぜぃ」
心なしかモクバはあまり元気がなかったように見えた。いや、モクバの兄である俺がそう思ったのだ、間違いであるはずがない。





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