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「……俺が悪かった、すまねぇな宿主」

「ごめんなさい、でしょ?」

獏良が、居心地悪そうに下を向いたままのバクラを覗きこむようにして顔を差し込む。…いつもの輝かしいにっこにっこ顔で、しかし、「じゃないと許さねぇ」という強い力を持ったオーラで。

苛立ちを隠さないままにこちらを睨んでくるバクラの鼻の頭をぷに、と人差し指で軽く突くと「ちゃんとできたら今度から君の分のシュークリームも買ってきてあげる」と彼は小さく、ほんの小さく呟いてみたのだが。

微かに動いたバクラのうさ耳触覚を獏良が見逃すわけもなく、ほらほらと背中を押すように微笑みかけた。


「チッ、しゃあねぇな……
…ご・め・ん・な・さ・い!! 
ッ、クソが、これでいいだろ!」


「っはははは、気分爽快だぜー!」

「無様だねぇマクラ。まさにDEATH☆GAME!!」


よくできましたー、と乾いた拍手を贈る獏良に一同がどっと笑う。その反応にうるせえと怒鳴り返し、バクラは隣の車両へどすどすと去っていった。

羞恥なのか怒りなのかはわからないが、らしくないバクラは所謂ツンデレのように一同に映った。つまりは好感度アップということだが、バクラは自分の評価が意外なところで上がってしまったことに気付くよしもなかった。


「あ…そういえば獏良くんのリングはああなったけど、このパズルももう1人の僕になるのかな?」

ようやく笑いから解放された遊戯が己の首から下げたパズルを両手ですくうように持ち上げてみる。
窓から入る日光を反射してゴールド☆に輝くそれの中に王様が詰まっているのかと思うと、なんだか不思議だ。

「いっそ一発やってみればいいんじゃねえか?」

と城之内が拳をゆるく突き出し、ボクシングのような構えをとる。彼らしい豪快な策だ。


「俺も見たいなぁ、もう1人の遊戯さん!」
「俺も俺もー!」

十代は両手頬杖をつきながら遊戯の後ろの座席から身を乗り出し、ヨハンは言いながらカメラを構える。


『や、やめろAIBO! そんなことしちゃいけない!』

「やだなぁ、せっかく組み立てたパズルを壊すわけないでしょ」


微笑みかえしたAIBOに安心したのか、王様は親指を立てながら「YEAH!!」と返した。

それを聞くなりAIBOは何か閃いたようで、あ! と声をあげて首にかかったシルバー(こと鎖)をそっと外し、鎖(ことシルバー)の端を握ってロープでも投げるように回した。

緩やかな円の軌道から、時間を経るにつれ徐々に速度を増して攻撃的な音を鳴らし始め。


「なっ…何してるんだ、AIBO?」

「いや、壊すのは駄目だけどポケ〇ンのモンスターボールみたいに投げたらなるかなっーて。ドゥヒン☆」


先に付いているパズルは遠心力が加わって、風を鋭く裂く殺人的な音を鳴らしている。そんなAIBOの行動に、壊そうとしているのではないという言葉の説得力はあまりにも儚い。
…第一これを床に投げるのだから壊れる可能性は踵落としより高いじゃないか…


「お、おいAIBO…まさかお前」
王様はただ一言だけようやく捻り出した。だが、全ては遅かったのだ。


そう、遊戯の純粋な好奇心が、まさに王様にとってのDEATH★GAMEになってしまったのだ!(実際は計画的犯行かもわからない)


「もう1人の僕、射しゅt」

AIBOが鎖から手を放そうとした、その時だった。電車がきついカーブにさしかかり、その車体がぐわんと揺れた。
そして必然的に立っていたAIBOのバランスも崩れ、前のめりになったAIBOの手から殺人的な速さを持ったそれが――放たれてしまった。


それが起こるまでの間は1、2秒となかっただろう。しかし世界で1番長い一瞬がこの電車の空間で始まったのだった。


まさに一閃。
それは本来行くはずであった地面を平行に滑空し、うとうとしていた闇マリクに向かって一直線に飛んでいく!

「させるか!」

それに気付き、向かいに座っていた遊星が素早くマリクを庇うようにその前に立ちはだかり、マリクが腰にさしていた千年ロッドを引き抜いた。
そしてそれをバットのように両手で握り、千年パズルをボールに見立てて…振りかぶった!


キィィイン!!


硬く高音で鋭い、金属同士がぶつかり合う音がした。その音にマリクは眉を寄せながらも目を開ける。眠りを妨げられて不機嫌なのか、何か言葉を発しようとしながらの目覚めだった。


その音とともに飛散した金色はパズルの欠片そのもので――王様には悪いが危機は回避された、と思われた。すみません遊戯さん、と遊星は目を伏せ…ようとして目線を上げた。
…金色のピースに混じって長い棒状のものが宙に舞っていて…遊星は嫌な予感に己の手の先のロッドに目を移す。

無い。無いのだ。いつもマリクが舐める丸っこい部分から、真ん中くらいにかけてが。答えは簡単だ、

折れた。

3000年の厚みは実に呆気なかった。


それに気付いたマリクが思わず顔芸を発動させてしまったそのタイミングで、その仕込み刃ごと折れた千年ロッドは獏良の脇を掠めてバクラのいた席に深々と突き刺さった、のだ。

ヨハンが思わず切ったカメラのフラッシュが、雷光のように世界を白に染めあげ。

「こんなはずじゃなかったぁあ!!」
「あぁりえなぃぃ…」

強烈な光とともに長い長い1秒は、終わった。





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千年アイテムはそんなに脆いものじゃないはずなのだが……





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