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甘く舌に響くいちご味が、まどろんだ意識を現実世界に戻していく。

3人がかろかろ飴を鳴らす音と、古典独特のお経のような文がつらつらと読まれていく音だけが空間を支配した。


「あー、もうマリクの呪文はどうでもいいから磯野先生の呪文はどうにかなんねえかな…」

「ああ、あれだろ、磯野先生の呪文って、…そうだ、ラリホー!」

「ラリホーマでもいけるな」
遊星が付け足す。補足するとラリホーもラリホーマもドラ〇エに出てくる敵を眠らせる呪文だ。


「でもマリクの呪文って本当の魔法使いっぽいよな! なんか変な杖持ってるし」
無邪気に納得する十代に、城之内は半ば呆れながら返した。

「あいつはあれだ、ポジション的には魔王の一番の部下的な……ん、あの車なんだ?」


窓の外に、見知らぬD・ホイールがある。弁当屋『サティスファクション』と書かれた荷台の付いたそのD・ホイールに乗っていた男は、「満足できねぇ!」と叫びながら被っていたメットを投げ捨てた。

なんだあれやばい奴じゃねえのかと心配した城之内と、彼の視線がかち合った。
「げ」と城之内は口にして視線を逸ら…そうとした、のだが……

「おい、そこのヤンキー!」
気付かれた。
お前も十分ヤンキーだろ、と思いつつ若干身を引いた城之内だが、その声を聞いて今度は遊星がひょこっと窓から身を乗り出した。


「鬼柳じゃないか。珍しい」

「あ、お前の知り合いなのかよ」

「まあな」

短く答える遊星に鬼柳は気付き、大きく手を振った。

「お、遊星! お前吹奏楽の行方知らねえか?」

「吹奏楽ならさっき行ったぞ」

「あ゛ぁ!? なんで弁当取ってかねえんだよあのクソガキどもが! 俺はこれから爺婆の法事に俺の満足弁当届けに行かなきゃなんねーんだよ!」

「…ああ、弁当屋って、お前だったのか」
遊星がそうかと頷く。鬼柳は自分のヘルメットを蹴飛ばし、D・ホイールに寄りかかるようにして呻いた。

「クソッ…このまま俺の満足の結晶は腐っちまうのか…? そんなん許せるわけねーだろが!! 遊星、お前が食うか!?」

「……いや、鬼柳、ちょっと待っててくれ」
鬼柳が悪態をつくと同時に、遊星と城之内は顔を見合せ悪戯な笑みを浮かべた。


(いーいこと思いついたぜ)

(奇遇だな…俺もだ)





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