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「本当にごめんね、クロウくん……おでこ大丈夫?」

「いいっていいって、わざとじゃねえんだしよ」

と言いつつもクロウくんの目にはうっすら涙が浮かんでいる。額に添えられた手がボクに心配をかけないようにってたんこぶを隠しているのを、ボクは知っていた。ごめんね、と心の中で呟く。


今、ボクは彼のD・ホイールに乗っている。風にはためく前髪をおさえながら、ボクはクロウくんに訪ねた。


「そういえば、クロウくんはどうしてここに…? クロウくんの家はここから反対の道だよね?」


悪夢の坂を滑り降りた先、クロウくんがいたほの暗い車道を突っ切って閉店をはじめた商店街の通りに入る。明かりが消えてきた商店街は、なんだかちょっと不気味だ。


「ん、あぁ、なんか遊星の親父さんに頼まれてよ。…ん、ここで大丈夫か?」

「うん、ありがとう!」


そこでクロウくんは路肩にD・ホイールを止めた。ヘルメットを外し、ボクを降ろすと自分も降りてヘルメットを運転席に置いた。


「それにしても不動先生は何を頼んだの?」


「あー、なんか吹奏楽の弁当の注文だってよ。この先に俺のダチがやってる弁当屋があるんだ」

「そうなんだ!」そういえば最近お弁当屋さんがこのへんにオープンしたって聞いたような…それかな?

「あれ、今日遊星くんは一緒じゃないの?」

「!」その時、クロウくんの肩がどきっ、と跳ねあがった。
何でだろう? ボクが問う前にクロウくんは口を開いた。…目だけは完全に泳いでる。

「い、いや、今日はちょっと別行動しててな。…っと、ここでお別れだな。じゃ、じゃあな、いい夏休み送れよ!」

「あ、うん。ありがとうクロウくん! じゃあまた今度ね!」
なんだろう…今クロウくんちょっと様子がおかしかったような…気のせいかな……まあいっか。


遊星くんのお父さん、不動先生は化学担当の教師で、吹奏楽の顧問なんだ。多分、不動先生は友達のクロウくんをたまたま見かけて頼んだんだろうと思う。


「そっかぁ、吹奏楽かぁ…」
小さくなっていくクロウくんの背中を見送りながら、ボクは呟いた。ふと視線を向けたショーウィンドウに、光を受けてきらきら輝く金のトランペットが見えた。ここは楽器屋みたいだ。
その輝きは首から提げるこの千年パズルによく似ていて、自然に目が行ってしまう。…綺麗だなぁ。千年パズルと取り替えたりできないかなぁ。

『おい相棒…あれは獏良じゃないか?』
そんなボクの思考を遮るかのように、もう一人のボクが呼んだ。獏良くん?


「え? あ、本当だ」

あの白い髪としましまの服は間違いないね。ボクは思わず声を張り上げた。

「獏良くぅん!」


獏良くんはゆっくりと振り返って、物が見えづらい時にするように目を細めてボクをとらえる。…まだよくわかってないみたいだ。
ボクが駆け寄っていくと、ようやく気づいたような顔になった。あれ、この目付きの悪さ、もしかして…


「ん…あぁ、遊戯かよ。お前も今帰りか」

『なんだ、バクラの方か。随分かわいいエコバックだな』

「聞こえてんだぞテメェ、ぶち殺すぞ」

ピ〇チュウがでかでかと描かれたエコバックを肩にひっかけたバクラくんがもう一人のボクに向かって凄むけど、その可愛らしいプリントのせいで迫力は8割減だ。


バッグの中身から察するに彼の夕食もカレーみたい。盗賊って名乗るくらいなのに、盗んだりしないでちゃんと買い物するんだー…意外だよね。






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