「藤原は何故チューバなんだ」 丸藤がセッションの最中、急にそう切り出した。何でこのタイミングで…? 丸藤はいつも通りの表情で、くすんだような色合いの珍しい銀色のバリトンサックスが彼の手のなかで輝いている。 「何でって…」 丸藤の真っ直ぐな視線がなんだか気恥ずかしくて、チューバに息を吹き込むふりをして目を逸らした。隣にいた吹雪も「そういえば」と過去を振り返るような声音になっていた。吹雪はキーの部分が赤いバスクラリネットを使っている。城之内君が「レッドアイズだ」とか言って赤いマジックで塗っていったらしい。…彼らしいな。 「楽器を決めるのは藤原が一番遅かったね。確かトロンボーンとチューバで悩んでて」 「…そうだったか?」 本当は覚えている。俺は体験入部で何回も練習したけど、木管楽器が吹けなくて、だから金管で考えてたんだ。しらばっくれてると丸藤が続けた。 「ああ。重いし、吹くのもテクニックが要る。難しい楽器なのに何故藤原が選んだのか、ずっと謎だった」 何故なのか教えてくれないか。 真っ直ぐで濁りのない丸藤の問いに、俺は答えられずにいた。 ……木管のグループでは一緒にいれないけれど、低音のグループになら一緒にいれるからだよ。 あまのじゃくな俺の口は彼らが喜んでくれるとわかっているのに、なかなか本音を紡いでくれない。 +++++ カイザーはサイドラなバリトンサックス。 JOINはレッドアイズ(城之内改造)なバスクラリネット。 語られてないが藤原は黒と銀のクリアーワールドとダークネスがいったいか! な感じのチューバです。 |