短編 | ナノ


クリームあんみつ  



「Excuse me.」

「はい?」

第一印象、さらさらロング金髪の美少年。
のっぺりした顔ばかりの人ごみの中に突如として現れたのは、すらりと背の高い外国人だった。自分を含めて鼻の低い日本人としか接したことの無い私には考えても無い出会いだ。

今日は幸運にも快晴で、まさに外出日和。朝からさんさんと照りつける太陽は彼の明るい金髪を照らしていた。
あ、これがイケメンって奴かと柄にも無く頬を赤らめた私だが、それと同時に嫌な汗がふき出した。

いま話しかけられたの、私だよね?

「えっと……ミー?」

「Yes. would you tell a way?」

「ウェイト! ウェイトプリーズ!」

英語の先生なんか比にならないくらいのネイティブな英語で返された。やばい、本当に私に話しかけてる。
本来ならイケメンと出会えた事に喜ぶべきなんだろうけど、だからって言葉の壁がありすぎるよ。

そもそも私は何をしに外に出たんだっけ。あ、お母さんにおつかい頼まれたのか。
我が家はここらでは珍しい甘味処をやってて、新メニュー考案のために材料を買いに出たんだ。
沢山の材料を詰められてパンパンに膨らんだビニール袋を見ながらそんな事を思い出した。

それにしてもまさか帰り道に外国人に話しかけられるとは思ってなかったな、私英語は苦手だよ。
どうにか理由をつけて逃げたかったけど、その理由を英語で説明するスキルすらも私は持ち合わせていなかった。
じゃあやっぱり私が対応するしかないのかな。

深く息を吐いて、目を泳がせないように意識しながら彼を見上げると見事に目が合った。イケメンって言うか、美人の部類だな。

「Are you OK?」

「えーと、ワンモアプリーズ……モア、スロウリー?」

「sure. Would,you,tell,a way?」

私なりに必死に知ってる単語を繋げて"もう一度お願いします、もっとゆっくりで"と言ったつもりだが、どうやら通じたらしい。案外日本人の下手な英語にも慣れてるのかも。
頼んだとおりにゆっくりと喋ってくれた言葉を頭でリピートしてそれらしく自己翻訳すれば、彼が道を尋ねたいらしいことがわかった。

観光客だろうか、私より年上には見えるけど、一人で海外旅行するような年齢にも見えない。
ともあれ今はどこに行きたいのか聞かないと。その返事を私が聞き取れるかは別として。

「ウェア、アーユーゴーイング?」

"どこにいくんですか"と聞いたつもりだけど通じているだろうか。日本人が習う英語は外国じゃ通じないとも聞いたことあるけど。
だけどそんな心配も不要だったようで、金髪の彼はカタコトの日本語で"カンミドコロ"と言った。

え? 甘味処?

「ど、どこの? じゃなくて、えーと……お店の名前! ネーム!」

「Name? Ah……"名字屋"?」

「名字屋!?」

えっと、それ、私の家です。って英語でなんて言えばいいんだろう。
先に言ったとおり、私の家は甘味処だ。江戸時代から続いてるって言うから結構歴史もある。
だけどおばあちゃんの代のときに何かの事情で店を京都から愛知に移したらしく、いまではここで営業してる。

ここらでは珍しい家業だけど、甘味処に行きたいなら普通は京都に行かないかな。
それとも愛知にあるって言うもの珍しさからだろうか。どっちにしろお客さんだとわかった以上、案内しないと。

「じゃあカモン! カモンウィズミー!」

「? ……OK.」

とりあえず私についていけばたどり着けるって事がわかったんだろう、金髪美少年は私の半歩後ろをついて歩いてきた。
その綺麗な容姿が人目を引かないわけは無く、多くの視線がついでに私にも突き刺さってくるから痛い。なんかこう、つりあわなさ過ぎて。って、いやいや別につりあう必要なんて無いじゃん、ただの店の人間とお客さんなんだから。

でも私だって一応は年頃の女の子なんだし、傍にイケメンが居れば多少ドキドキしたっておかしくないでしょ。
自分でもどっちが本音かわからなくてこんがらがってる。何しろ色々と初めての事態だからね。

ひたすら家に向かって歩を進める間は彼は話しかけてこない。話しかけられても答えられる自信がない私にはその方がありがたいにはありがたいんだけど、声聞きたいなーくらいは思わなくも無い。
時おりちらっと後ろを振り返ると、そのたびに綺麗な目と目が合って、愛想笑いで返す事の繰り返し。

どこの国の人かな。何で日本に来たんだろう。歳は? 名前は? 好きな食べ物は?
無意識のうちに頬が赤らんできて熱い。一目惚れだなんて思いたくないけど、もしかしたらそうなのかな。できれば中身で人を好きになれる女になりたかったんだけどねぇ。

「What you name?」

「えっ?」

ところが今まで沈黙を決め込んでた彼が突然それを破った。振り返るとそこに彼の姿は無く、気づかないうちに私の真隣に。
思わず固まってしまった私はもう一度同じ事を尋ねられ、それで再び頭の回転が再開する。

「名前、名字……」

「名前……OK. I'm Lilliadent.」

「リリアデント?」

「Yes,Lilliadent.」

見かけどおりというかなんと言うか、綺麗な名前だなって思った。
それよりも話しかけてくれたことが何故か嬉しく感じられて自然に頬が緩む。あれ、初めは困ってたのに。
だけど今のを引き金に、金髪の彼もといリリアデントともっと話してみたくなった私は必死に単語を探した。あいにく私の残念な頭では向こうの幼児レベルの会話すら出来ないと思うけど。

彼は私のへたくそな英語に耳を傾けて、そして私にもわかるようにゆっくり丁寧に返してくれた。
リリアデントは留学生らしく、歳は13だと言った。私より年下なんだ。さすが外国人は大人びてるよね、日本人が童顔なだけかもしれないけど。
てか、私外国人と喋ってる。すげぇ。


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