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 ……泣く子も黙るのが幻影旅団じゃなかったか?
 現状に首を傾げる。
 ノアズアークによる五つのステージ紹介が終わったところで、関わった覚えのない子供たちが砂糖を見つけた蟻のように一斉に群がってきた。
 アイちゃん曰く、「みんな自分がなるべく長く生き残れるように、力のある――つまりここでは大人のあなたを引き入れようとしているのね」らしい。
 どれだけ可愛かろうと未成年は対象外だからこんな死に物狂いなモテ期はいらない。


「みんなとりあえず落ち着こう、な?」


 そう繰り返しても、子供たちが離れる様子はない。そのうち怪我人が出てしまうんじゃないだろうか。
 うたのおにいさんってすげー、なんて現実逃避しつつもどうしようかと考えていると、ランちゃんとメガネが子供たちを励ますように大きな声で呼びかけた。


「みんな、元気を出して! 勝負する前から負けちゃ駄目!」
「そうだよ、たった一人でもゴールに辿り着けばいいんだから!」
「これから自分が生き残れそうなステージを選んで」


 二人のおかげで不安そうながらも子供たちは俺から離れてくれた。八つ裂きにされるところだった。自由の身は素晴らしい。
 安堵あんどの息をつきながら自分もステージを決めるためにノアズアークの紹介を思い出す。
『バイキング』は冒険。デモ映像を見る限り、ここは仲間との連携が要となるステージだ。子供たちをまとめられる自信も、率いていく力も、協力の精神も欠けている俺には向かないだろう。
『パリ・ダカールラリー』はカーレース。興味ない。自分の足の方が信用できる。
『ソロモンの秘宝』はトレジャーハンターになってお宝探し。盗賊としては、盗るのではなく探すのは邪道だよな? 普段からなんでもかんでも盗んで生計を立ててるってわけじゃねぇが。
『オールドタイムロンドン』はサスペンスもの。ジャック・ザ・リッパーという犯人を捜して捕まえるらしい。つまりはブラックリストハンターだ。追われる側の経験しかない。
『コロセウム』は闘技場で戦闘。きっと完全な個人プレイになるだろうし、ここが一番向いているだろう。天空闘技場での経験もある。


「アイヴィーお兄さん待って!」


 そうしてコロセウムの入り口へと歩いて行こうとすると、誰かに呼び止められた。まだ何かあるのかと振り返ると、どうやら自分を呼び止めたのはアユミちゃんらしかった。


「兄ちゃんコロセウム行くのかよ? 闘いに自信あんのか?」
「ああ、まあ。コンピューターに負けるほど弱くはないさ。で、どうした?」
「いや、まあ、用事があるわけじゃないんですけど……」


 ミツヒコが歯切れの悪い返事をする。
 用事もないのに呼び止めたのか? 遺言を聞いてほしいなんて勘弁だぞ。
 変なことを言うようならすぐにでも一蹴いっしゅうしてやろうと考えていると、顔を見合わせて口をまごつかせる彼らの思いが伝わってきた。


「あー……一緒に行ってやろうか、お前らのとこ」


 彼らの顔は途端に明るくなった。
 ステージの向き不向きはあるとしても、誰かと行動を共にするのは俺にとってもマイナスばかりではない。この世界の常識が俺には備わっていないからだ。
 どうやらオールドタイムロンドンに行くらしかった。
 殺人鬼が殺人鬼を捕まえるのもおかしいとは思うが、ブラックリストハンターの職業体験をする気持ちで追う側の苦悩を学びたいと思う。決して馬鹿にしてなんかないぞ?
 アユミちゃんたちと共にステージの入り口へと着くと、先ほど俺がちょっかいをかけた生意気な少年たちが立っていた。選択ステージが被ったらしい。足を引っ張りあうことにだけはならないといいが。


「各ステージにはお助けキャラがいるから、頼りにするといいよ」


 そう言われたところで、今さらノアズアークに良心を感じるのは難しい話だ。呆れ混じりに笑う。
 ゲームスタートの声を受けて、一斉に光へと足を踏み入れた。

(P.11)


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