学年も1つ上がり、張り出された名簿を前にみんな自分のクラスを探している。
オレもその中に混じって一組から順に名前を探す。
「立花!オレと一緒じゃん!」
「そーだな」
ナスみたいな頭のヤツが隣のヤツに話しかける。
どことなく素っ気なかったが、気にすることなく2人は歩いていった。
そのやりとりを聞き流しつつ、オレは名前を見つけてさっさと教室に向かった。
「藤野ー!お前もこのクラス?」
「おー!お前もかよ!てか、なんだよその髪型!」
同じクラスだった友達が早速駆け寄ってきた。
挨拶代わりに背中をバシバシ叩く。
他愛ない馬鹿話とイメチェンした髪型がおかしすぎて腹かかえて笑った。
「オレの席は、っと」
息を整えて周りを見渡す。
「あったあった」
机にリュックを置き、椅子に腰掛ける。
ふー、と一息ついて前を見ると、さっき掲示板のとこにいた2人組が座っていた。
ナス頭のヤツが一方的に喋り、もう1人は本を読みながら相づちをする。
すると何に反応したのか分からないが、笑い声が聞こえて内心驚いた。
「あ、今笑ったな!」
「……な、なんだよ。変か?」
「いやいや、変じゃねーって!可愛いって!」
「か、可愛いってなんだよ!」
慌ててフォローする。
そのフォローがおかしな方向にいってることに気づいてない。
オレは正直驚いていた。
さっきの印象で素っ気ないヤツだと思っていただけに笑うのか、と。
(いやいや、人間なんだから誰だって笑うだろ!)
心のなかで1人突っ込む。
予鈴が鳴り、席に戻っていくのを見計らって前のヤツに話しかけた。
「なあ、本好きなのか?」
「え?あ、うん」
そいつは目を見開いて、いきなり話しかけてきたオレに戸惑っているようだった。
確か立花って言ってたな。
「ふーん、オレあんま本読まねーからなー。なぁ!今度オススメなやつ教えてくれよ。かーちゃんが本読め読めってうるさくってさ!」
「うん、いいけど」
「約束な!あ、オレ藤野。これからよろしく!」
ちょと馴れ馴れしいかと思ったが、相手は気にしてなさそうなので大丈夫だろう。
担任が入ってきて話はそこで中断された。
あれから数日後。
オレ達は何かと一緒にいるようになり、同じ部活にも入った。
自分で言うのもなんだが、わりと打ち解けるのは早いし友達も多い。
皆で馬鹿やるのも楽しいけど、立花とこうやって他愛ない話をしながら本読むのも悪くない。
「なあ」
「なに?」
「これからユズピって呼んでいい?」
「いいけど。どうした急に」
「呼びたくなっただけ!」
なんだそりゃ、と笑った顔に心臓が跳ねた。
最近よく笑うようになったせいか、クラスメートも気軽に話しかけてくる。
なんとなく皆と違う呼び方をしたくなった。
「ユズピー!帰ろうぜ!」
「おー」
部活が終わり、辺りはすっかり暗くなっていた。
リュックを背負い部室を出る。
「今日、満月なんだな」
「本当だ!なんかデカく見えね?」
「ああ、見える。綺麗だな」
2人で見上げる。
街灯と月明かりで照らされた道を歩いていく。
この時オレは星空に集中しすぎてて、目の前の障害物に気付けなかった。
「藤野、前!」
「へ?どわぁ!!?」
某コントなみに勢いよく電柱に激突して、一瞬走馬灯が駆け巡ったがなんとか踏張った。
「大丈夫か?」
「イテテ……。な、なんとか」
「……たんこぶ出来てる」
ゆっくりと前髪を掻き上げ、額を撫でる。
結構でかいな、と呑気なことを言ってる前でオレは顔の近さに痛みもどっかいっていた。
「立てるか?」
「あ、ああ!」
心臓がまだ騒がしく脈を打っている。
団地の前まで来ると。
「じゃあな。ちゃんとデコ冷やしとけよ」
「おう!またな!」
背中が小さくなるまで見送る。
熱くなった額を撫でながら呟いた。
「やばい…惚れたかも」
(あとがき)
妄想100%な出会い話。
うちの藤ユズはなかなかラブラブになりませんね(笑)