小説 | ナノ


今年も文化祭というビッグイベントがやってくる。
……が、テディベア研究会(略してベア研)はまだテーマすら何も決められていなかった。
それにヤキモキしているのが、ついこの間入ってきた新入部員の新田だ。
部員達はトランプやらオセロやらで遊んでいる、あまりに部活の内容とかけ離れた光景に熱く拳を握った。

「先輩達、文化祭どうするんスか?このままだと間に合わなくなるっスよ!」
「大丈夫だって、去年と同じで作品飾るってのは決まってるから」

のほほんとトランプをシャッフルしながら理央が笑った。
新田は不満そうに配られてくるカードを目で追いながら考える。
なにかが足りないと。

「それはそうっスけど、もっとこう、なんていうか……盛り上がるような何かをしたいっス」
「何かってなに!?」

アバウトすぎる言葉に思わず全員でツッコミを入れてしまった。
作品飾る以外に何かあるのかと梶山はさっきのセリフを新田語録ノートに書きこんだ。
遊び半分で始めたこのノートは早くも二冊目を更新中である。

「じゃあさ、うちで考えない?何かってやつ」
「マジ!?」

新田のただならぬ熱意に折れたのはみかんだ。
内心新田の言っていたことに少し興味があった。
他の皆は不満そうだったが、最終的にせっかくの文化祭だからたまには付き合うか、ということで今はみかんの部屋に集まっている。

「新田は共同制作みたいなことしたいんだよね?」
「っス、皆でやりとげた!って感じが欲しいっス」
「じゃあやっぱ皆で作れるものがいいよね」

なんだかんだ言いつつ結局は皆ノリノリなのだ。
その時、玄関からドアの開く音が小さく聞こえて、メンバーは一斉に振り向いた。

「………っ!!?」

開けっ放しのドアの向こうには、驚きすぎて固まるユズヒコの姿があった。
それに真っ先に食い付いたのが梶山と浅田だ。

「みかんの弟?超可愛いじゃん!」
「ほっぺとか似てるね〜」
「ちょ、ちょっと2人共!」

じりじりと近づく見知らぬ人物に、すぐさま恐怖を感じ取り、同じ距離を保ちつつ後退る。
予想通り後ろは壁、前からゾンビのごとく、ゆらり……と近づいてくる2人組。
それを止めに入ったのはみかんだ。

「ユズピー!遅れてごめんって……およ?」

タイミングがいいのか悪いのか藤野が玄関から大声で呼ぶ。
ちょうどユズを2人の女子が囲んでいる状態だった。
藤野にとってまさに未知の世界だ。

「弟くんの友達もおいでよ♪今文化祭の打ち合わせしてるんだ」
「え!いいんですか!」
「なっ!?」

嬉しそうに目を輝せる親友に、もう逃げられないことを悟って小さくため息をこぼした。


―――数分後

なぜか打ち合わせそっちのけで2人は質問攻めにあっていた。
隣で藤野が嬉しそうに答えていく中、ちらりと姉を見ると。
苦笑いでその様子を眺めていた。
どうやら2人を止めるのは諦めたらしい。

「弟くんは彼女いるの?」
「い、いない……です」

突然話を振られて、吃りながら答える。
むしろそんなこと聞いてどうするのかと、思わないでもないが、考えないようにした。

「あ、そうだ!」

いいものがあると言って理央が袋から取り出した物に皆注目する。
手に持ってるのは淡い茶系のねこみみカチューシャだ。

「みかんに付けてもらおうと思って持ってきたんだけど……」
「え、あたし!?」
「せっかくだからユズヒコくんに付けてもらおうかな」

なにがせっかくなのか分からないが、断れる雰囲気じゃないことだけは分かった。
みかんが後ろでホッと胸を撫で下ろしていたが、多分あとで付けさせられるんだろうとユズヒコは冷静に分析していた。
そしてこの状況から逃避すべく、心のスイッチを静かに切った。

「私の目に狂いは無かった!」

茶系のねこみみは嬉しくないほど髪の色にマッチしていた。
姉なら分からなくもないが、男のオレに付けてなにが楽しいのだろうか、と興奮気味の周囲に圧倒されながら思う。

「ユズピ、可愛い……」
「……っ、もう取っていいですか?」

隣で頬を染めながら呟く声に居たたまれなくなり、返事を待たずに、ねこみみを理央に返した。
気合いで顔が赤くならないようにしていたが、実際はどうだったか分からない。

「じゃあ次はみかんいってみようか」
「えぇぇーーー!?」

いたずらっ子の笑みで、すっかり油断してたみかんにズイっと近づく。
抵抗も虚しくねこみみを付けられ、恥ずかしいそうに顔を真っ赤にして俯いていた。

「あーもーっ可愛すぎっ!」

呆然としているメンバーを尻目に、バシバシと携帯で写メを撮り始めた。
もう2人の世界である。
ユズヒコも自分がさっきまでねこみみの餌食になっていたことなど忘れ、2人を眺めていた。


文化祭当日、レンタルしたくまのぬいぐるみを着たみかんと意外な才能を発揮した新田の活躍で、今まで以上に来客人数を稼ぐことができた。

(あとがき)

5巻の文化祭ネタ。
藤野に可愛いというセリフを言わせたいがためにできた話です。
みかんと藤野が顔合わせちゃったとか色々ツッコミ所がありますが広い心で読んでもらえると嬉しいです。

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