小説 | ナノ


「のぉーーー!」

爽やかな朝に似つかわしくない絶叫が、部屋全体にこだました。
目覚ましを何度も何度も慌ただしく確認するが、無情にも時間だけが過ぎていく。
確実に遅刻だ。
いつもならそんなことで焦ったりしないのだが、今日は大事なテストがあるのだ。
素早く着替えをすまし、散らかり放題の樹海を越え、玄関を飛び出した。

必死に走りながら、もうテストは始まってる頃だろうか、せっかくユズピに勉強教えて貰ったのに……と、すでに諦めモードになっていた。

校舎に入るとテスト中だけあって辺りは静まり返り、自分の足音だけが妙に響く。
それが、さらに不安を掻き立てられた。

「……藤野、遅刻か」
(うわぁぁああーーー!!)

教室の前まで着き、ドアに手をかけようとした瞬間、突然ドアが開いて藤野は飛び上がるほど驚いた。
叫び声を出さなかったことを褒めてもらいたいくらいだ。しかもついてないことに目の前に居るのが遅刻に厳しい林先生だった。

怪しく光る四角いメガネを見ながら、自分の不幸さ加減を呪った。そんなやり取りをしてるうちに、終了のチャイムが虚しく鳴り響いた。

(あーテスト終わった!……色んな意味で)

うなだれながら藤野は席に向かうと、ユズヒコが駆け寄ってきた。

「藤野、大丈夫か?」
「うぅ……。ユズピー!」

抱きついてくる藤野に、以前は慌てて剥がそうとしていたが、なかなか離れてくれないので最近はされるがままになっている。
クラスメートはこの光景を微笑ましく、相変わらず仲良いな〜などと思っていた。

「よりによって林先生が居るときに遅刻なんてついてねぇー!」
「目覚ましかけてなかったのか?」
「かけたと思うけど、覚えてない……」

うーん、と考えるポーズで唸りながら答えた。

「まぁ、さっきのテストはまた受けられるからそう気を落とすなよ」
「え!?そうなのか?」
「ほら、今日風邪とかで休んでるヤツとかいるし、そいつらと一緒に受けられるんじゃね?」

その言葉を聞いて一気にやる気を取り戻した藤野に、単純なヤツ……と呆れながらも、少し安心した面持ちで席に戻った。
次のテストは英語だ。
予鈴が鳴り先生がテスト用紙を配り始めた。


「うぁーー、やっと終わったぁ!」

テストが終わり、緊張感から解放されたのか大きく伸びをしてカバンを肩にかけた。
HRも終わり皆足取り軽く帰っていく。

「ユズピー!帰ろうぜ」
「おう」

2人は並んで歩く。
どっか寄ってこうぜ!と藤野はテンション高く言い放った。

「寄ってくって、このへんコンビニくらいしか無いぞ」
「ユズピんちがあるじゃん♪」
「はぁ!?今からウチ来るのか!?」

いきなりの申し出に開眼するくらい驚いている。
しかしそんなことを言いだすのは、今日が初めてではない。
目的は分かり切っていた。

「……姉貴はいねーぞ」
「うっ、いや、そりゃーユズピのねーちゃんも見てみたいけどそーじゃなくて……」

語尾がだんだんしどろもどろになっていく。
ユズヒコは訳が分からず頭にクエスチョンマークを浮かべた。

「?」
「だぁーー!やっぱ今の無し!」
「な、なんだよ突然っ」

奇声を上げた藤野にビクッとなりつつ首を傾げた。
驚いているうちに、光の速さで駆け出した後ろ姿を見送りながら、ただただ疑問符を浮かべることしかできなかった。



(あとがき)
時期は中間テストあたりですかね……?(聞くな)
中学のテストってどんな感じだったっけと記憶をひねり出しながら書いたんですが……。
所々あやしいです。


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