小説 | ナノ


珍しく藤野は1人で過ごしていた。
写真集の一件以来、ユズヒコは小山田に呼ばれることが多くなった。
本人はしぶしぶといった感じで付き合ってるようだが。
暇を持て余してるところにナスオがニヤニヤしながらやってきた。

「どーした、藤野?……はは〜ん、またユズピのことだろー?」
「な、なんでだよ」

図星をさされて複雑な気分になる。
藤野の悩みは大抵ユズピだもんな〜と言われて、お前はなんでそんな余計なことだけ鋭いんだ!と頭を抱えたくなった。

「小山田とユズピが仲良さそーにしてんのがそんなに気になる?」
「そんなんじゃねーよ。今さら2人が仲良いからって……」
「やきもちだな」

いきなり後ろからかけられた声にビックリしてひっくり返りそうになった。
音もなく現れるとは、さすが石田。

「びっくりさせるなよ!てか、やきもちって……」
「そのまんまの意味だけど」
「そーそー、もう認めちゃいなよ藤野〜」
「なんなんだよ!2人して」

石田はそのまま須藤との雑談に戻っていった。
ナスオはというと、もうじれったすぎて言ってしまいそうになるのを必死で押さえていた。
2人は誰から見ても両思い。
どっちかが気づいて告白してしまえば、あっというまにカップル成立する勢いだ。
なのに2人は平行線を辿ったまま進展なし。
ここまでくると、気づいてないというより気づかないふりをしてるように思えてきた。

「はぁ〜。俺は気にしないからな……」
「な、なにがだよ」
「男同士の恋愛だよ」
「男同士ぃ!?」

肩を落としてフラフラと席に戻るナスオを見守りながら藤野は目を丸くする。

「藤野?どうかしたのか?」
「いや、なんでもねー。それより小山田は?」
「変な写真ばっか見せてくるから途中で帰ってきた」

うんざりした表情で席につく。

「変な写真?」
「……変っていうか、アイドルの水着だけど」

正直、好きでもないアイドルの写真を見せられてもあんまり面白くない。

「……藤野は好きなんだろ?あーいうの」
「え!?」
「小山田が言ってたぞ。藤野は巨乳好きだって」
「はあ!?」

確かに好きではあるが、巨乳好きってほどではない。
藤野も健全な中学生男子。できればあるほうがいいなくらいの感覚だ。

「べつにオレ巨乳好きじゃねーし。アイツの言うこと真に受けすぎだぞ!」

なんつーことをユズピに吹き込んでんだアイツは!といない相手に怒りつける。

「ユズピだってあんとき写真集に食いついてただろ!」
「食いついてなんかねー!」
「じゃあ何で毎回小山田んとこ行くんだよ!」

2人の言い合いがヒートアップしていく。
クラスメートは、痴話喧嘩なんて珍しいな〜と遠巻きにそのようすを眺めていた。
もちろん石田達も注目している。
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