なさねばならぬなにごとも

 他人との縁なんて、物凄く儚いものなんだっていうことを翼はよく知っていて、多分それは真実だと胸を張れる。
 だから積極的に縁なんて作らないように生きていたのに、高校生になって最初の冬からそうも言ってられなくなった。
 初めて恋をして、みっともなく泣いて縋って、とんでもなくカッコ悪い醜態も晒した翼を、好きだといってくれた人が現れた。
 何が何でもこの縁だけは切りたくないと、そう思ってしまった時から、翼は今まで以上に不安定に揺らいでいる。



「なあ、あれ夜久先輩じゃないか?」

 昼休み、友人に誘われて教室で昼食をとっていた翼は、何気なく窓の外を見たらしい友人の声に窓の外を見た。
 そこには確かに月子がいて、その隣には幼なじみだという男が二人、彼女を守るように並んで歩いている。

「しかし、本当にガード堅いよなー…翼はある意味勇者だよ」
「ぬはは、平民には思いもよらない色んなことがあったのだ」
「誰が平民か」
「ぬははは」
「ちくしょー!」

 いつものように笑いながら、外を歩いている月子たちを見る。
 翼のことを好きだと月子は言ってくれるけれども、自分と並んでいるときと比べて、彼らの方が似合っているような気がして翼の内心は複雑である。
 月子が楽しげに笑うのは、いいこと。でも、その隣に自分じゃない男がいるのは?

「おもしろくない」
「は? どうした翼」

 食べかけのパンを机において立ち上がると、すぐ横にある鍵を開けて、勢い良く窓を開け放って翼は叫ぶ。

「月子!」

 下を歩く月子は弾かれたように上を向いて、翼を見る。そして笑って手を振った。

 月子が楽しげに笑うのは、いいこと。そしてその原因が自分なら?

「ぬははっ、最高かも」
「お前さっきからどうしたよ……つか、見せつけんな!」
「ぬぬ、見せつけてなんかないぞー」
「くっそー…彼女欲しい……!」
「ぬー…月子はあげないぞ」
「わかってるっつの!」

 他人との縁なんて極々儚いものだってことを、翼はよく知っている。
 その縁を儚くなんてしたくないなら、どうのこうの言ってられないってのは最近になってわかったこと。

「ぬーん…早く放課後にならないかなー」
「まだ昼休みだっつーの」
「月子に会いたいぞー」
「聞いてねーし」

 とりあえず何をするためにも月子本人と合わないとダメだから、今はとにかく早く放課後が来ればいいと、翼は思う。

Quick sand/流砂
title/ユグドラシル
100103
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -