side:S あの日、タチ悪く寝ぼけた馬鹿男の脳味噌を直接蹴飛ばして、クソ戯けた寝言ごと粉砕したソイツは。 皆が駆け寄るその馬鹿を放って。 しゃがみ込んで、静かに静かに。 そっと、朽ちた神機を撫でていた。 その神機がレンと名乗って、ソイツに接触していたと知ったのは、少し後のことだ。 「……おい」 声を掛ければ「んー」だの「おー」だの人間としての知性を全く感じさせない呻き声を発して、ゆっくりと振り向く。 ぼんやりとしたその瞳に目立った感情を見ることはできない。………ただ自分の対人スキルが残念であるという確率も残されてしまっているが、まあ割愛する。 「どしたん、何か用?」 にぃっと、いつもの様にアホそのものな笑みを浮かべたソイツは、まあほんとにいつも通りで。なんだよ気にしてんのオレだけかよこの野郎。……あ、コイツ女か。 「別に」 「へ?」 「何でもねえよ」 多少なりとも交流があった相手なんだろう? なあ、何か思うことはないのか? あるんだろう? 「………何でも、ねえよ」 あの時、あんなに静かに、とても静かに。 なあ、あんなに泣きそうな顔で神機を撫でていたのに。 たしかに、たしかに、そうだったのに。 誰にも見せないんだな。 人には見せないんだな。 オレに見せないんだな。 アラガミには、見せるのに、な。 20121124 |