疑似フレグランス

朝の清々しい空気の中、今日はどんなカリキュラム組もうかなとか考えつつ、廊下を歩くアキラはすっかり足元がお留守になってたみたいで、いつの間にか剥げてたらしいタイルに足を引っ掛けた。
急速に傾いていく体に、床と激しく接吻しちゃうことを覚悟して、アキラはぎゅっと目を閉じた。んだけれども。

「ティーチャー、足元には思わぬデンジャーがクライシスだよ」

ギリギリな所で見事にアキラを抱き止めることに成功したカズキは、よっこらせとアキラの傾いた体の位置を修正してあげて、どっちもほっと胸を撫で下ろす。

「ありがとう、ごめんね?」
「ツリーにしちゃノーだよティーチャー」

危ないから気を付けてねって感じのカズキの台詞に、わかったなんて素直にお返事を返して、アキラはふとカズキから漂ってくるいい香りに気がついた。

「カズキくん、香水つけてる?」
「ノーだよ、ホワットにどうしたんだい?」
「いい匂いがする」

一歩近付いて確かめてみれば、やっぱりいい匂いがしているような気がする。でもつけてないって本人が言ってるし、気のせい? なんてアキラが首を傾げていると。

「ティーチャー」
「ん?」

何だろうってアキラが視線を上に上げれば、なぜか嬉しそうなカズキの表情がみえて、本当に何だろうってアキラの首はさっきから傾きっぱなしだ。

「カズキくん?」
「……ねえ聞いてくれるかい?」
「ん?」

カズキの語りかける声はとても優しく、表情はひどく柔らかい。でもって照れくさそう。何が恥ずかしいのかアキラにはさっぱりだけど。

「好きな人からはいい匂いがするんだ、知ってるかい?」
「………え?」
「そういう話があるんだよ………ちなみに」



「…………ミーはティーチャーからもバッチリグッドなスメルをキャッチアンドフィーリングなんだよティーチャー!」



後には真っ赤になってる二人だけがそこにいて、通り掛かかったリッケンが何事かと首を傾げてしまうことになる。んだけど、まあそんなことは蛇足だよね。

120213
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