死荒怪路

このどうしようもない脳みそでも、痛みだけは鮮明でいやになる。

「あー……いたーい………」

焼けた脇腹が痛い。叩きつけられた背中が痛い。揺さぶられた頭が痛い。激しい鼓動を叩き出す心臓が痛い。ひしゃげた足がが痛い。噛まれた腕が痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い 痛い痛い痛い痛い痛い 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。本当にどうしようもない脳みそなら何も感じなきゃいいのに。中途半端にだめなのが一番駄目なんじゃないだろうか。

「小指はどこかなー、どっこどこどこどこー」

歌なんか歌って、噛み痕なんていう生易しいものじゃない穴ぼこを見ればすっかりと貫通して向こう側までよく見える。穴だけならいいのに小指が見あたらない手。笑えない、笑えない、笑えない、笑えない、笑えない、笑えない、痛いから、動かないから、足りないから、欠けてるから。
頑張れ私のアラガミ因子! そんなんじゃ何のために打ったんだかわからないぞ! せめて小指を何とかして頂戴な。足がひしゃげてようが立てるから、でも小指がないとちゃんと支えられないから、剣をふるえないから、引き金をひけないから、戦えないから。ほんとにどこいった私の小指。小指小指小指小指小指小指小指小指小指小指小指小指小指。
しかし本当に痛いな、下手に頑丈だから死ねもしない。ふつうだったらもう死んじゃってるはずなのにどういうこと? 後腹に二三穴さえあけてくれたら流石に逝けるのに、あのアラガミどこいった。せめてトドメをさしてって痛い。

「おい」

ざりっと足音がして、見慣れた人物が現れた。深くフードを被った彼。じろりと私を見てから神機を肩に担いでしゃがみこむ。ああ、そうか、まだ駄目か。でも、もう、痛いから、痛いから―――――

「勝手にくたばるな」

抉れた脇腹に手が触れる、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。触らないで痛いから、痛いから、痛いから。そして触れた手から流れる暖かい何か、血が止まる。じくじくと傷が塞がりはじめる。けれど小指が、小指がいない。痛い痛い痛い。傷は塞がるのに痛いのだけが残っている。立たないと、立って、戦わないと、小指が、小指は?

「早く立て」

そういって目の前に差し出される。ねえ、なんでキミそれ、なんで、どうして、ねえ、キミ、キミ、キミ、ねえ。

110424



ワタしの小ユ び
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