人の優しさを知らぬあの子にも、優しい光が降るといい

※残留ED後



寅之助にとって、九楼撫子は異端だった。
ぶっちゃけていうと、おかしいんじゃねーのこの女とか思っちゃっていたわけである。
あきらかに自分に怯えているとか怖がってるとかそんな感じなのに、まあ言うことは聞かないし訳のわからない事を言い出すし睨んでくるし、と扱い辛いことこの上ない。
その上お前はトラじゃないとか。
まるで、自分ととても親しかったようなことまで言い出す始末である。
小学校6年生。
12才の時。
喧嘩してた記憶しか、寅之助にはない。
それなのに、まるで個人的に交友関係をもっていたようなことを、撫子は言う。
疎まれて、避けられて、拒まれていた自分、と。

気に入らなかった。
当然訳のわからないことを言う撫子も気に入らなかったけど、それ以上に。



受け入れられていた、自分自身が憎たらしかった。



「トラ、ねえ、トラ!」
「………あ?」
「もう、ボーっとしてないで。楓が呼んでたわよ」
「……………撫子」
「何?」

きょとんとした顔をして自分を見る撫子に、拒絶の色は見えない。
それに、殊の外ほっとしてる自分がなんかガキのようで、もうどうしてやろうかとか思っちゃうくらい色々気に食わない。本当に。

「トラ? どうしたの?」
「……別に、何でもねえよ」
「そう? なら、ほら楓の所に……」
「なあ、撫子」
「だから、どうしたのよトラ」

向こうの自分もそう思ったのだろうか、と寅之助は思う。
そんな思いで日々を過ごしていたんだろう、今の自分のように。
あの、時間の停滞した世界で。
いなくなったのだと知ったら、どうするのだろう。

「………別にどうもしねえか」
「ちょっと、トラ! さっきから何なのよ……ちょっ」

諦めちゃうんだろうな、なんて、寅之助はムッとした顔をして近付いた撫子を抱きしめた。

「もうっ! トラ!」
「うっせーうっせー、はなさねえよ」
「トラってば……しょうがないわね、もう……」
「ははっ、そうそうしょうがねーから諦めとけ」

でも、今撫子がどっか行っちゃったとして。
はいそうですか、なんて諦めることはできないに決まってる。
大人しく身を預けて来る撫子を抱きしめたまま、寅之助はそう考えた。

今までどうだったかは知らないしわかりたくもないけれど。
撫子は今ここにいる【寅之助】を選んだわけだし。
今ここにいる【寅之助】が欲しいと言ったわけだし。



柄にもなく、あの世界の【寅之助】も上手くやれればいいかなとか思ったりして。



――――まあ、撫子はあげないけど。



でも、無理か止まってるし。



とか。

101130
title/群青三メートル手前
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