ファントムミュージック

酷く寂しい歌が聴こえる。
胸を突くような切なさが痛くなるような。
胸を刺すような悲しみに泣きたくなるような。
酷く寂しい歌が聴こえる。



余りに悲しくて目を覚ましたエピフォンは、真っ暗な部屋で一人で居ることに耐えられなくなったらしくて、のっそりと起き上がってベッドから降りた。
そして隣の部屋で寝ているはずのアキラの所へ、足音をたてないように静かに、静かに歩き出す。
その間もずっと頭の中で音楽が聞こえてきて、美しいとか綺麗とか全部当てはまるはずのその旋律が、どうにもこうにも悲しくて切なくてたまらない。
こんな経験、エピフォンはしたことがなくってもうどうしていいのかわからない。
音楽は美しく、愛しいものだったから。
こんなにも悲しくて切なくて苦しい音楽があるなんてエピフォンはそんなこと知らなかった。

「……ひじ…エピフォン?」

廊下を歩く足が、ぴたりと止まる。声がした方を振り向けば、寝間着に薄いカーディガンを一枚羽織ったアキラが立っていて、エピフォンはなんだかすごく泣きたくなった。

「どうしたの? 何かあった?」

何にもしゃべらないエピフォンが心配になってきたアキラが、ぺたぺた音を立ててエピフォンに歩み寄る。

「エピフォン………?」

目の前に立つアキラを見て、無性に苦しくなってどうにもならなくて、エピフォンはその細い体を抱き締めた。
アキラはびっくりしちゃって、何がどうしてこうなったのかさっぱりわからないけれど、その腕を振り解こうとは思わない。
何でかっていうと、エピフォンの体が微かに震えていたからで、何か泣いてるんじゃないかと思ったからだ。

「……アキラ」
「なぁに?」
「歌が、きこえて……」
「うん」
「ずっ……と、きこえ、て」
「うん」

悲劇を歌えば、悲しいものになるのかもしれない。
孤独を歌えば、切なくなるのかもしれない。

それでもきっとここまで痛いものではないんじゃないか、なんてエピフォンは思う。



だってこれは悲劇でも孤独でも何でもない。



「『愛しています』『愛しています』『愛しています』……アキラ、苦しい……」
「エピフォン……」



だって、この旋律はただ。



ただ、ひたすらに心から愛を伝えているだけなんだから。





(震えるエピフォンの体を抱き締めて、アキラは出来る限り優しく、優しく、頭を撫でる。
とても苦しいんだってわかる。わかるのにきっと何も出来ない。アキラはそれが泣きたいくらい悔しい。
だから、せめて、エピフォンが苦しくて悲しい時はそばにいよう。例え慰めにならないんだとしても。
そう決めて、アキラはぎゅっとエピフォンを抱き締める力を強くする。)

Deep/心の底からの
title/ユグドラシル
101114
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