あくまで親切。

「んーっ、んんーっ!」

偶然通りがかった食堂前、閉じたドアの向こう側から唸るような声が聞こえてデュセンは立ち止まる。
その唸り声はよく知る人物のモノで、何してんのかしら? とガラガラ音立ててデュセンは扉を開けた。

「アキラちゃん、何してるの?」
「うわぁっ!」

短い悲鳴と一緒に、きゅぽん! なんて間の抜けた音がしてアキラの手から何かが滑り落ちた。
からんからんと床に転がるソレは、少し大きめのガラス瓶。
衝撃で、トロトロと中身が零れてしまっている。

「? ハチミツ?」
「デュ……デュセンかぁ……びっくりしちゃった」
「あら、ごめんなさい? でもどうしたのソレ」
「ホットミルク作ったから、ハチミツ入れようとしたんだけど………」

何か開かなくて、ははは……と笑うアキラの頬には勢いよく開きすぎたせいか、ハチミツが垂れているのにデュセンは気付く。

「ねえ、アキラちゃん……」
「うわ! どうしよう零れてる! 取りあえず拭かないと……」

教えようかと口を開いたデュセンに気付かなかったらしいアキラは、雑巾どこだろ? とか何とか呟きながらキョロキョロと視線を動かしている。
無視される形になったデュセンは、ちょっと面白くない。
アキラに悪気はないなんてことはわかっていても、ムカッときちゃうのは仕方ないことだと思う。
ふと思い立ったちょっとした悪戯を我慢せずに実行に移しちゃったのも仕方ない。
仕方がないわよね、なんて考えながら、デュセンはアキラの名前を呼んだ。

「アキラちゃーん」
「デュセン………?」

呼ばれて振り向いたアキラのその頬に、ぺろりと舌を這わせて垂れたハチミツを舐めとって、そして。

「ついてたわよ、ハチミツ」
「デュ……デュセ………へ? ええ?」

舐められた頬を押さえて顔を赤く染めるアキラを見て、にんまりと楽しげに、笑った。

Bee/ミツバチ
title/ユグドラシル
101003
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