ダメなオトナ

別に寝ることが悪いわけではない。
琥太郎だって寝るのは大好きだ。
別に保健室で寝ることが悪いわけではない。
琥太郎だって職務放棄で良く寝ている。

「……だからってな、無人の保健室で寝るのはどうなんだ? 夜久」

薄い布団をかぶってぐっすりと寝入っている月子を見て、深く深くため息を吐いた琥太郎を誰が責められるだろうか。
進級し3年生となったものの、今年度も女子入学希望者はおらず。
学園唯一の女子という肩書が払拭されないままの月子は学園中の男子生徒(一部男性職員)からの憧憬や欲情を一身に背負わされている(本人に自覚は無い)。
そんな状況で、鍵の掛かっていない部屋でよくも熟睡できたもんだと琥太郎は項垂れる。

「襲われたらどうするつもりだ? ……まったく」

そんなことしようものなら絶対許さないし、とりあえず生まれたことを後悔させるべくしかるべき処置を行ってやる位の考えは琥太郎にはあるけども、まあ自衛できる部分は自衛してほしいと思う。

琥太郎的にも、色々限界とかがあるものだから。

「夜久、起きろ。……おい」

ゆらゆらと軽く体を揺すってやれば、むにゃむにゃ言いながら月子が目を覚ます。

「こ……たろー、さん?」

何度か寝返りを打ったのか若干乱れた制服が、舌っ足らずの口調と相俟って、なんかこう保健医とか理事長とかにあるまじきいけない感じの感情が琥太郎の中に芽生えるというかわき出すというか。
直接的でいささかお下品な表現をするならば、要は下半身にキちゃった、というか。

「……………っ! 夜久!」
「んー?」

ぼんやりと目元を擦りつつ、ふにゃりと力の抜けたような笑顔を見せる月子に、元々こういうことには働きの鈍い理性がぶちりと音を立てて切れていくのを感じて、琥太郎は苦く笑う。

「………なあ、月子」
「はい?」

だいぶ意識がはっきりしてきたらしい月子が「あれ? 名前呼び?」なんて首を傾げる間もなく、琥太郎は勢い良く月子の体をベッドに縫い付けた。
せっかく起きあがったのにまたベッドに逆戻りさせられた月子は何が起こったのかと目を白黒させて、抵抗するのをすっかりと忘れてしまっている。

「………月子」
「え? あの? んん……!」

抵抗しないことを肯定と前向きに解釈したずるい大人は、月子の戸惑いをいいことにその唇に口付けた。



「………あれ?」
「どうした?」
「いや、鍵かってる」
「琥太郎センセーまたいねぇの?」
「うわー……またかよ!」
「舐めて治せってことじゃね?」

外のそんなやりとりに気付いた琥太郎は、唇を歪めて笑い、そんなん気にしてる余裕もない月子は、必死に琥太郎にしがみつく。

ある物事に関する理性をうっかりと忘れてしまうことが多い駄目な大人のお陰で、今後も保健室の鍵が閉まることは多そうである。

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title/ユグドラシル
100909
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