少し伸びた背

よたよたとたくさんの荷物を抱えて歩く、アキラさんを見つけた。
あれじゃすぐに転んじゃうんじゃないかな、大丈夫かな、手伝おうかな。
そんなことを考えているうちに「うわっ」なんて小さな悲鳴を上げて、アキラさんの体が揺らぐ。

「アキラさん!」

何か思うよりも先に、体が動いた。
ばさばさと目の前に白い紙が舞う。

「……………」
「……………」

アキラさんも、そんな彼女を支えるボクも無言。
盛大にぶちまけた書類が、はらはらと床に散らかってしまっていて、これを片付けるのは大変だなーなんてことを考える。
しばらく茫然としていたボクたちだけど、アキラさんの一言ではっと我に返った。

「………ヒロくん、背、伸びた?」
「へ?」

突然何を言い出すのかな、なんて思っていたら、体勢を立て直したアキラさんが自分の頭の上からボクのおでこにチョップしてきた。

「何するのさ」
「うん、やっぱり大きくなってる」
「………ほんとに?」
「うん! 最近何か視線が合わないなって思ってたけど、そっか背が伸びてたんだね!」

うんうんと頷くアキラさんを見て、そういえばボクも最近アキラさんと視線が合わなかったことを思い出す。
背、伸びてたんだ。
身体測定の度にみんなから「ヒロはもう成長期終わってんのか」なんてバカにされてたけど、そんなことなかったのかな。
………ちょっと、嬉しい、かも。

「………どうしたの? ヒロくん」
「ううん、何でも無い」
「……………」
「? どうしたの、アキラさん」

ちょっとだけ、笑った顔がいつもと違ったから尋ねてみれば、アキラさんはぽつりと呟く。

「ごめんね」
「どうして謝るの?」
「……なんか、ちょっとだけ寂しくなっちゃったの」
「どうして?」
「………こうやってヒロくんは大人になっていくんだなって」
「そりゃ、ボクだって成長するよ。……ダメダメのままでいるつもりなんか、ないんだから」
「うん、でも。……置いていかれそうで、ちょっとだけ寂しいなって」

「変なこと言って、ごめんね」悲しそうな顔をしてそう言ったアキラさんが、消えちゃいそうに見えて抱きしめた。
ボクがアキラさんを置いていくことなんて、あり得ない。
どっちかって言ったらボクが置いていかれそうで、いつだって焦ってるのに。

「置いてかないよ」
「うん、わかってる。……わかってるよ」

抱きしめてみて、改めてわかった。
アキラさんが、少し小さくなったような気がする。
こうやって、少しずつ少しずつボクが大きくなって、いつかアキラさんを完璧に包み込めるようになった時。



「寂しくならないくらいぎゅって抱きしめるよ」

100810
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