きみが何を変えてくれたのか知っている?

空が青いことがこんなに喜ばしいことだなんて知らなかった。
もしかしたら、一生知ることがなかったかもしれないこの事実に、感謝してやりたいくらいで。

あらためて思う、生きてるってことは素晴らしいことだ。



「………ヒジリくん?」

ぼんやりと空を眺めてるオレに声をかけるのはアキラなのだが。
その顔はなんか不満げだ。あれオレ何かしたっけ。

「いや、何かゴメンな? 謝るからそんな顔すんなよ」
「……謝ってもらっても嬉しくありません」
「あー……マジでゴメン。つか、何で怒ってんの? オレ何かした?」
「……………」

尋ねてみればふいっと顔をそむけて黙りこむ。
何だ何だ、何だってんだ? ヘソ曲げちまってるんですけど。

「アキラ?」
「……………」

これは本格的にヤバイのか? と土下座でも決め込む覚悟をしてたらアキラの耳が赤くなってることに気付いた。
顔はさっきからずっと背けられたまま。

「アーキーラー?」
「……………」
「こっち向いてみろって、な?」
「……………」

頑なにこっちを見ないアキラの耳はますます赤くなっていて、おもわず吹き出すと、物凄い勢いでオレを睨みつけてきた。
怒った顔はしてるけれど、その顔は真っ赤で、何っつーかすげぇ可愛い。

「顔、真っ赤だぜ?」
「う、るさいっ! なんでもありません!!」
「いやいや、何でも無くないだろ?」
「何でも無いったら!」

そう言ってまたオレから顔を背けたかと思うと、アキラは猛ダッシュをかけて逃げ出した。
何に照れたのか、何が恥ずかしいのか、とにかく何かあったらしいアキラをとりあえず追いかけることにする。
アイツも一生懸命走ってんだろうけどよ? とりあえずつい最近までライダーやってたオレに敵うモンでもないってことを教えてやろうと思う。



「はい、つかまえた」
「………っ!」
「つか、何逃げてんの? マジでオレ何かしたワケ?」
「………別に、そうじゃなくて」
「じゃ、何よ」
「……それは………」

それなりに走り回ってからつかまえて、逃げた理由を問う。
アキラは言いにくそうに言葉を濁して、俯いている。
言いたくなきゃ言わなくていい、なんて言えればまあカッコもつくんだろうけど。
オレもそうそう大人にはなりきれない。

「……ヒジリくん、笑わない?」
「いんや、聞いてみねぇと何とも言えねぇ」
「………じゃあ、言わない」

三度顔を逸らされるっつーのも、まあ堪えるもんだってことを今学んだ。

「ウソだって、言ってみ? 笑んねぇから」
「……本当に?」
「ホントだって」
「…………あのね?」

ちらりと上目遣いでオレを見る、アキラの顔はやっぱり少し赤い。
つか、上目遣いってどんだけサービスだよ。可愛いじゃねぇか。

「ちょっとだけ、その、嫉妬? っていうのかな……そんな感じになっちゃって」
「嫉妬?」
「えっと、何と言うか……ワガママ? うん、そんな感じが近いのかな……そのえっと」
「ワガママ?」
「あー、うん、その……」
「……………」
「………つ、つまり! その……二人なんだからわたしを見ててほしいなって思ったの! それだけ!」

やけっぱちになったアキラはいつも可愛いと思ってる。心の底から。
しかも、今のはオプション付きときた。
いや、いやいやいやいや。

「オマエ……ほんっと可愛いな」
「へ? ひ、ヒジリくん?」
「いや、可愛すぎんだよマジで、つかもうコレ据え膳じゃね? いただくべきじゃね? そこんとこどうなの?」
「す、据えっ? え? ちょっ……」
「帰ってベッド直行だろ? この場合」
「どの場合よ!」
「つか、いただいちゃう気マンマンだからオレ」
「や、ちょっと……今まだお昼……」

騒ぎながらじたばたと暴れるアキラを抱えて、寮に向かって歩き出す。
じりじりと照りつける太陽に、青い空、青い海、白い砂浜。
今は腕の中に居る愛しい人。

あの時手に入れることができなかった全てのものは、今ここにある。



生きてるってことは、本当に素晴らしい。



心から、そう思えることが、今は凄く幸せだ。

title/群青三メートル手前
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