さいごの言葉を覚えていてね

―――あなたはわるくないわ、ヒジリくん

―――だから、ねえ



その先は、言わないでくれないか。
もう、そんなことになりはしないから。



――――あなただけは、いきて



ふざけんな! そんなん、全然嬉しくねぇよ!
カッと頭が熱くなって、叫んでやろうかと思ったところで目が覚めた。
毎晩毎晩不愉快な夢だ。いつまでも女々しい自分が心底嫌になる。
あんなことにはもうなりはしない。

右手に刻まれた傷を見る。
他のライダーとは違う、白い傷跡。

1stの、エピフォンとレゾナンスできる、証。

この力さえあれば、もうアイツを失うことも無い。
そうだ、今度こそ守れるんだ。
だからもうこんな夢なんて、見る必要なんか無いはず。
無い、はずなんだ。

それなのに、夢を見るたびに胸が軋む。
寒気がして、目の裏が熱くなって、自分が何をしたいのかわからなくなる。
叫びたくなる。何でもいい、吐き出したい。

「あー……クソっ!」

ベッドから飛び起きて、制服に着替えよう。
そして、夜風にでも当たっていよう。
そうでもしなければ、どうにかなってしまいそうだ。



星がきれいな夜だと思う。
月が明るい夜だと思う。
波の音が耳に心地よく響いて、まあステキな夜ではあるよな。

「……何してんだよ、オマエ」
「ヒジリくんこそ、もう消灯時間過ぎてるよ」
「………そっくりそのまま返すぜ?」
「教官だからいいんです!!」

ステキだからって女一人で歩いていいかなんてそんなんダメに決まってんだろうが。
ヤケになって開き直ったアキラはサービス満点の水着姿だ。
つか、夜だぜ? ありえなくね?
溺れたらどうすんだよ、それ以前に変質者に襲われでもしたらどうすんだよ。
ISの連中ブチ切れじゃんか、変質者殲滅すんぞ。
いや、オレも加わるけどな? 余裕っしょ?

「……こんな夜中に水遊びはオススメしねぇよ?」
「だって、昼間は忙しくて……せっかく海が隣にあるのに」
「いやいや、溺れたらヤバイっつの。とりあえずオレの部屋行って熱い一夜でもどうよ」
「……………お断りします」

ふう、とため息を一つ吐いて砂浜に置かれたバスタオルを手にとって、アキラは寮に向かって歩き出す。

「あれ? 帰っちゃうワケ?」
「……ヒジリくんが変なことばっかり言うんだもの!」
「一応はあるんだ、危機感」
「? 何それ」
「あー……天然か、なるほどね」
「また変なこと言う」

アキラの肩に掛けられたバスタオルが風で揺れる。
月に照らされたその肌は、白い。



―――ヒジリ、くん



「……………っ」

赤い世界の中で、白かった、彼女の。
青白く、血の気が引いた、白い。
冷たい。

「ヒジリくん?」

唐突に脳裏に浮かんだ悪夢に動けなくなってしまったオレに、怪訝な顔をしたアキラが手を伸ばす。
はっとして引っ掴んでしまったその手は、ちゃんと血が通っている。
暖かくて、柔らかい。

「……………オレは」
「ん?」
「力を手に入れた」
「………うん」
「手に、入れたんだ」

だから、もう。



―――――あなただけは、いきて



オレを守らないでくれ。

title/群青三メートル手前
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