「元」死にたがり

無力だった、そして無力だ。
昔も、今も。

「なんで逃げねぇんだよ!」

考えてみれば、オレって結構不憫じゃね?
レゾナンス出来ない時に限ってピンチがくるとかさ、マジありえなくない?
そこんとこ、どうなワケ? そんな運命とか? ……引くわ。

「ヒジリくん一人置いていけないってさっきから言ってるでしょ!」

しかもコイツこんな所が変わってねぇし!
頼むからカッコつけさせてくれよ。ホントにさあ!

「チクショウ! どこだよVOXは!!」
「落ち着いて! 方向は合ってる!」

静かな夜に似合わない轟音が響く。
黒一色に塗り潰された世界の中を、細い腕をつかんで走る。
しかし細いな。骨だろコレ。メシはしっかり食っとけよ、死んじまうぞ。
それでもとくとくとく、とつかんだ場所からアキラの脈を感じる。
生きているんだ、今、コイツは。ついでにオレも。

「……アレじゃね? もうコレ終わったらベッド直通コースでオッケーだろ」
「………良いわけないでしょ!」

茶化せば本気で怒って返してくるアキラ。
つかんだ手首はまだはなれていない。
はなすつもりも無い。
ずっとつないでいるんだ。ずっと、今度ははなさないように。
ああ、できることなら、どうか。

死ぬんだったら、今が良い。

守れないのなら、せめて共に。
もう二度と置いていかれることのないように。

ぎゅっとつかむ手に力を込めると「きゃっ」なんて小さくアキラが悲鳴をあげる。

「………ヒジリくん……?」

不安げな声。
前はついぞ聞けなかった声音。
ああ、何なんだよ、お前。



―――変わってないのに、違うじゃねぇか。



「……んな不安がらなくたって良いだろ?」
「……………でも」
「いいんだよ」

ずりぃだろ。
そんな、いきなり弱いとこ見せつけるみたいな、そんなこと。
そんなことされたら、オレは調子にのりたくなっちまうだろ?

「………守るから」

ああ、もう、死んでしまっても良かったのに。
今までは。

「お前のこと、守るから」

けど今は、何よりも、守りたいと思い始めている。
そして、共に生きたいと。
そのために、力を。
何よりも、誰よりも、強い力を。



たった今、力が欲しい。

title/群青三メートル手前
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