無くした雨傘と白いタオル

※赤ED後



雨が降る日のことです。
エピフォンはアキラに「おつかいしてきてくれない?」と頼まれました。
断る理由もなく、何より愛する人の頼みなので差し出された傘と買い物かごを受け取って彼は家を出たのです。
問題なくおつかいを終わらせて、エピフォンが店を出ようとしたところ、入り口の傘立てに立てていたはずの傘が無くなってることに気がつきました。
外はバケツをひっくり返したような雨が降り続いています。下手に飛び出しては、買ったものまで濡れてしまうでしょう。
しかし、このまま雨が止むのを待てばいつまでかかるのかわかりません。頼まれたのは晩御飯に使われる食材なのです。実際に調理するアキラのためにも、出来る限り早く家に帰らなければなりません。
エピフォンは小さくため息を吐くと、買い物かごを抱きかかえるようにして、家に向かって走り出しました。
雨粒は容赦なくエピフォンに叩きますが、彼は足を止めることも速度を緩めることもありません。出来る限り早く、買い物かごを濡らさないようただひたすら足を進めます。
そうして家にたどり着いたエピフォンを出迎えたアキラは、そのひどい有り様に顔を強ばらせました。
全身がぐっしょりと濡れ、ぽたぽたと水滴が絶え間なく落ちています。このまま放っておけば確実に風邪っぴき決定でしょう。
「ちょっと待ってて!」と室内に駆けていくアキラを、エピフォンは買い物かごを抱えたまま小首を傾げて見送りました。
一体何を慌てて居るのだろうか、という疑問と自分は何か間違いを犯してしまったのかという不安が彼の中でぐるぐると渦巻いて、どうしたらいいのかわからなくなりはじめた時に「ごめん! お待たせしましたー」とアキラが戻って来ました。
その姿にほっとしたエピフォンは彼女の手に白いタオルがあることに気が付きました。
それで何をするんだろうと、じっとタオルを見つめていた彼の視界が真っ白に染まります。
驚いて後ろに下がろうとした彼の頭をタオルで包み、がっちりとホールドを決めたアキラは「こら、動かない! 拭けないじゃない」などと言いながら、わしゃわしゃとタオルで拭き始めました。
ふわりと香る、彼女が好きだという洗剤の香りと優しい手の動きにもがくのを止めたエピフォンを手早く拭いたアキラはうんうんと満足げに頷いて見せて「おかえりなさい」と笑いました。
エピフォンはそんな彼女を見つめて、「ただいま」と笑いました。

100705
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