素敵な味がしたのかい?

 ハニーとかスイートハートとか、どうして女の子は甘いものに例えられることが多いのか、月子にはさっぱりわからない。
 マザーグースじゃあるまいし、スパイスやらお砂糖やらで構成されているわけでもない体のどこに甘さを見たのだろうか。

「確かに、女の子は甘いモノじゃないわね」

 そう言って、カップをソーサーに置いた琥春に月子は力強く頷いて見せた。
 ぴしりとしたスーツを身にまとう彼女は言葉の通り、甘さとかそういったことからは遠く見えて。

「ですよね、考えた人はどんなつもりだったんでしょうか」
「まあ、甘いものであって欲しいんじゃないかしら。男の子は」
「勝手に決めつけないで欲しいですよ」
「夢見がちなものよ、男の子は。それを叶えてあげるのが女の子の器量ってヤツね」
「そういうものですか」
「そういうものよ……でもお花ちゃんはホントに甘そうよね」

 にっこりと笑みを浮かべて言ってから、琥春は「耳をかしてくれる?」と月子をちょいちょいと手招きする。
 素直にその口元に耳を近づけた月子は次の瞬間、真っ赤になって悲鳴をあげて、その場から飛び退いた。

「こ! こは……こはるさ……?」
「うふふ、ごちそうさま」
「え? あの、何……ええ?」

 べろりと舐められた耳をおさえて、月子はひたすら恥ずかしがって、訳がわからなくなって、あーとかうーとか唸っていたけれど、周りの視線が自分に集中しているのにようやっと気付いて、慌てて伝票を持つと、座っている琥春の腕をつかむ。

「出ましょう! 今、すぐに!」
「そうね、そうしましょ」

 にこにこと笑って、立ち上がった琥春は月子の手から伝票を抜き取り、歩き出す。

「あの、自分の分は自分で……」
「いいわよ、奢らせて?」
「すみません………」
「うふふ、いいのよ別に……あ、お花ちゃん」
「はい?」
「蜂蜜も砂糖もあっていると思うわ」
「?」



「とても甘かったもの、貴女は」

Sweetheart/すてきな人
title/ユグドラシル
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