エアポンプと赤い金魚

「首を絞められて居るみたいだ」

 彼氏にそんなことを言われて、月子は読んでいた雑誌から顔を上げて視線をそちらに向けた。
 いつも通りにでかい蛇のクッションに抱きつきながらごろごろごろと床を転がる自分の彼氏が何を行っているのかが本気でわからない。
もちろん首を絞めたことなどないし、それに類する行為もしたおぼえがない。

「………四季くん」
「……どうした、月子」
「私、何かしたかな」
「何でだ」
「えっと……」

 それならばと尋ねてみれば、なぜそんなことを聞くのだと言わんばかりの表情を浮かべてじっと自分を見つめてくる四季に、ため息を一つ吐いて肩を落とす。

「どうした、月子」
「うん……何でもないよ、気にしないで」
「そんな風には見えない」
「大丈夫だから」
「……………」

 じっと見つめる赤い瞳が動かない。言うまでやめないよ、なんて言われたような気がして月子は口を開く。

「首絞められてるみたいって、どういうことかなーとか思っただけだよ」
「ああ、そのことか」

 納得しましたと頷いた四季が顎に手を当てて考え込み始めたのを見て、月子は慌てて手を振る。

「別にそんなに考え込まなくても大丈夫だよ。少し気になっただけだから」
「……少しでも気になったんだったら答えてやりたい。時間をくれないか」
「え、あ……うん」

 真剣に考え込んでいるらしい四季をしばらくはじっと見ていた月子だったけど、ふとのどが渇いた気がしてお茶でも持ってこようかなと立ち上がる。ついでに四季の分もとってこようかな、なんて考えながらその場から離れた。
 月子はちらりと四季の様子をうかがったけれど、顎に手を当てたままちっとも動かなかった。



「…………月子」
「きゃあ!」

 お湯を沸かしてさあ茶を淹れようとした所で、背後から急に声をかけられて月子は飛び上がるくらい驚いた。
 そんな様子にもお構いなしで、四季は後ろからぎゅうと月子を抱きしめる。

「……四季くん?」
「いなかったから驚いた」
「ごめん、お茶でも持って行こうかと思って……」
「いい、いらない」
「うん……?」

 抱きついて離れない四季に困惑しながら、月子は回された腕にそっと触れた。そしたら、益々腕の力が強くなってやっぱり月子は困惑してしまう。

「月子」
「何?」
「首が絞められているみたいだ」
「……?」
「絞められているみたいだったんだ、月子」

Addict/溺れる
title/ユグドラシル
100623
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