「くさい」

嫌悪感をあらわにしてそう言うと、ちょうど喫煙タイムを終えてベランダから戻ったばかりの彼は不思議そうに眼を丸くした。

「え、煙草くさい?」
「ううんそうじゃなくて…香水くさい」
「そっちか」

ああなるほど、とうなずくシャルナークは、いつも煙草のにおいが苦手なわたしのために、戻る前に香水でごまかしてきてくれる。その気遣いはうれしいけれど、「じつは少しこぼしちゃったんだよね」と打ち明けていたずらっぽく笑うシャルからはものすごい濃度の香りがただよっていて、ちょっと近寄りたくないレベルだった。

「うわあ、ちょっと離れて。冗談抜きでムリ」

鼻をつまみながらうったえて、手のひらで追い払う。すると何を思ったかシャルはにやりと人の悪い笑みを浮かべ、とうとつにわたしを抱き締めた。かたい胸に鼻をぶつけて、とたんにむせかえるような香水のにおいに巻き込まれる。そこにわずかにある煙草臭。くさいくさい。
思わず身じろぎをしてみるけど逃がさないとばかりに腕に力が込められる。抵抗の余地はない。これはたぶん、わたしが彼を邪険にしたことへの仕返しなんだろうな。
シャルは散歩にでも誘うように言った。

「このまま軽く運動でもしてみようか」

その言葉の意味するところはもちろんそういうことだと、大腿部に伸びてきていかがわしい動きをしている右手に教えられる。

「ムリムリ酔う。絶対軽くないし。離して」
「聞こえなーい」

背中を叩くと、頭の後ろでうたうような声が返ってくる。この距離で聞こえないことあるかい。心の中で毒づいたら、身体がふわりと浮いて横抱きにされた。

「あ、ちょ、下ろしてよ!ひきょう者」
「なんとでも」

寝室に向かうシャルの腕の中でめいっぱい暴れてやったけど、彼にとってはどうってことないらしく涼しい顔で鼻歌なんか歌っちゃってる。
そっとベッドに下ろされて手首をシーツに縫い付けられる。

「ちょっと、シャワー、…」

言いかけると、シャルがくちびるに人差し指を当てて真剣な表情で「シーッ」と言う。思わず言葉をのみこむ。言うことを聞いたわたしを、よく出来ましたというようにきれいに微笑んだシャルは、それから容赦ないキスの雨を降らせた。額に、頬に、首すじに。甘い熱が降りてくるたび香りの波がおそってきて、クラクラする。媚薬みたいだ。細胞の奥までしみてきて、脳の髄まで侵されたような気になる。

「…ん、…はっ…シャル」
「…ちょっと、なんて眼してんの」
「え?」

服の下から胸を愛撫していた手を止めて、シャルは唖然とした顔でわたしを見上げる。

「あんまり煽らないでよ」

軽い運動じゃなくなってもナマエのせいだからね、と言って再開された愛撫は性急なものに変わっていた。
こうなったらもう仕方ない。大人しくこの煙草味のキスを受け入れて、めまいさえしそうな香水に、酔ってしまおう。

16/06/07



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