二人の関係
リドルと会話してからバレンタインデーがやってきたが、ラザレスにとってはうんざりした一日となった。
ロックハートの計らいにより、大広間はピンク色に染まり、授業中だろうがなんだろうが関係なく小人が歩いてまわり、バレンタインカードを配って回った。
ラザレスも例にもれず小人に追いかけられ厄日となったのである。
そんなバレンタインも過ぎ去り、イースターの時期になっていた。
2年生は来年度に新たにとらなければいけない選択授業を決めなければと焦りだしている。
グリフィンドールでハリーたちが悩んでいた頃、同様にスリザリンではドラコがラザレスの横で悩んでいた。
「なあ、ラザレスはどれを取った方がいいと思う?」
「ドラコが興味のある授業をとればいいんだよ。僕もその通りにするから、被らない授業がでてくるだろうね」
「うぅん……マグル学は論外だとして……ラザレスは何をとるんだ?」
「ん?秘密。来年度のお楽しみ」
さらさらと希望科目を紙に記入するとその紙をカバンの中へ仕舞った。
そんなラザレスを見たドラコはむっとしたが、自分の受けたい授業を決めたのか同様に記入をして紙をしまったのだった。
* * *
とても天気のいいクィディッチ日和だった。
今日はグリフィンドール対ハッフルパフの試合で、11時になれば競技場は生徒で一杯になった。スリザリンの継承者によってマグル生まれが襲われ、気が滅入っていた校内もクィディッチの試合の時は盛り上がる。
選手たちが入場しウォームアップを終えると、マダム・フーチが競技用ボールが今か今かと投げられるところだった。しかし、ボールが投げられ試合が開始することはなかった。一つのアナウンスによって。
「この試合は中止です」
マクゴナガルだった。いつも厳格な彼女が今日は一層そう思えた。
至る所からブーイングが飛び交うが彼女はアナウンスを続けた。
「生徒は全員それぞれの寮の談話室にもどりなさい。そこで寮監から詳しい話があります。みなさん、できるだけ急いで!」
急かすように言われのろのろと動き出す生徒たち。ラザレスもそれに続いた。
ドラコも例に漏れず文句を言っていたが、ラザレスはそれに聞く耳を持たずこれほどの事態にどうしたものかと頭を働かせるのだった。
地下のスリザリン寮に戻り、恐らく全てのスリザリン生が集まったのであろう、そんな時に寮監のセブルスは現れた。
「全校生徒は夕方6時までに、各寮の談話室に戻るように。それ以後はけっして寮を出てはならない。授業に行く時は、必ず先生が1人引率する。トイレに行くにも必ず先生に付き添ってもらうこと。クィディッチの練習も試合も、すべて延期だ。夕方はいっさいクラブ活動をしてはならん」
羊皮紙に書いてあったのであろう決まり事を全て言い終えると、彼は羊皮紙を丸めローブの中へとしまった。
これほど厳重な体勢をしかれるほど、ホグワーツは危機に瀕していた。誰もしゃべることなく、寮監の話を聞いて。誰もが次の言葉を待った。
「これまでの襲撃事件の犯人が捕まらねば、今後学校が閉鎖される可能性もある。もし、犯人について知る者がいれば申し出るように」
そう言えば長いローブを翻し談話室から出て行った。
セブルスが去ったことで、生徒たちは思い思いに不安を言い合う。
スリザリン生といえども、この中にはマグル出身者はいる。まだスリザリンから被害者がでていなくとも不安は募るばかりだった。それはどの寮でも同じだと言える。
「スリザリンの継承者が誰かは知らないが、この調子だとスネイプ先生がおっしゃったとおり、ここが閉鎖されるのも時間の問題だな」
いつものせせら笑いでドラコが言う。
その通りだ。ここまで被害者が出てしまうと、危険な場所だと魔法省や理事会が閉鎖しかねない。……ん?理事会……?
「ねぇ、ドラコ。私たちは襲われないわよね?」
「だから言っただろう、パーキンソン。スリザリンは純血を狙ったりしない。僕たちのような純血なら尚更ね。でも、ロングボトムはどうだろうなあ……?」
「そうだ!」
「わっ!な、なんだよ!いきなり大きな声を出して……」
「理事会だよ、ドラコ!ルシウスだ。今夜彼がここに来るはずだ!」
「父上が?」
「きっと、理事会の決定を今夜にでも知らせにくるはずだ。そうか、今日だ……」
そう言いながら自分の部屋戻っていくラザレスが、次に談話室に顔を出したのは夜も更け生徒が寝静まった時間だった。誰も談話室にいないことを確認すると、いつものように魔法で透明になり、談話室を出て行く。目指す先はハグリッドの小屋だ。
* * *
ラザレスは入り口で小屋の中での一部始終を見ていた。魔法省大臣のコーネリウス・ファッジによって森番のハグリッドは、アズカバンに連れて行かれるということ。そして読み通り、ルシウスによってホグワーツの理事たちがダンブルドア定職命令が出されたということが知らされた。
こんな時に理事たちは何がしたいんだ?ダンブルドアがいなくなってしまってはホグワーツの守りが薄くなってしまう。つまり逆効果だ。少し考えればわかること。
4人が小屋から出ていくのを見送ると、ラザレスは少し思案し後を追った。
城から出てきたルシウスを待っていたのはラザレスだった。
「やあ、ルシウス。久しぶり」
「……ラザレス、消灯時間だろう。寮から出てはダメじゃないか。それに今は危ないだろう」
「平気だよ。それに君に会いたかったから。これから帰るんだろう?見送るよ」
「……見ていたのか……」
ことの一部始終を見ていたことを悟ったルシウスは校門に向かって歩き始めた。ホグワーツ内では姿現しができないので、校門から出ないといけない。
縮み薬によって身長も小さくなっているラザレスに合わせて、ルシウスは歩幅を縮めて歩く。
そしてその後ろを静かに追う人物がいた。ハリーとロンだ。2人はラザレスと同じくハグリッドの小屋での一部始終を見ていたのだ!
あれから、ハリーたちはハグリッドの残したメッセージの通り蜘蛛を追って禁じられた森に入り、大きな蜘蛛のアラゴクからハグリッドの無実を聞いた。しかしアラゴクは森にノコノコとやってきた餌を逃すわけにはいかないと2人を捕まえようとしたので、命からがら逃げてきたのである。
そして、クタクタになった身体にムチを打ち寮に戻ろうとした所、ラザレスとルシウスがいるのを見つけ、こっそりと後をつけてきていた。
「クリスマス休暇にお前もドラコも帰らなかったから、私もナルシッサも寂しかったぞ」
「ごめんね、でもドラコが残ると言うなら僕も残らないといけないだろう?あの子はまだ幼い魔法使いだから、目を離せない」
「それもそうだな……いつもすまない」
「いいんだよ。なんだか昔のルシウスの気持ちが少しわかる気がするんだ。それに今年はこんなに物騒だからね、誰かさんのせいで」
「…………万が一のことを考えて気をつけるんだぞ」
「大丈夫だよ。ドラコは純血、それに僕は……」
全てを言い切る前にルシウスが口元に人差し指を添える。それ以上言うなということだ。
「ここまででいい。早く寮に戻りなさい」
もう少しで校門が見えてくる辺りだった。ルシウスは軽くハグをして「また夏休みにな」と言うと、行ってしまった。
ラザレスもルシウスが見えなくなるまで見送ると来た道を引き返し、寮へと帰る。
終始二人のやり取りを見ていたハリーとロンは、ラザレスの言葉が気になっていた。
「なぁ、ハリー。僕、フローリュアンドブリッツ書店の時からちょっと思ってたんだけど、ラザレスとルシウス・マルフォイって本当に親子のみたい関係なのかな?」
「ラザレスはマルフォイ家の人間じゃないって言ってたけど、あの二人の話を聞く限りなんだか家族というより、友達、……みたいに見えたかな……」
「だよな……」
透明マントを被りながらラザレスと同様に寮へと帰路に着く2人。大量の大きな蜘蛛に追いかけられ、疲労も溜まった彼らに寮に戻ってからラザレスのことについて考える余裕はなく、すぐに眠りに落ちていったのだった。
2016.08/07
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