「おまえは色気がねぇなぁ」
 それが俺なりの口説き文句のつもりだった。色気はないが可愛いげがあるといったつもりだったのだ。だからそばに置いておきたいとそこまでいえばよかったのかもしれないけれど、色気がねぇなぁといったところでロリの平手が右頬目掛けて飛んできたので、言葉にする時間がなくなった。
 ビンタは受けてあげた。愛情表現。その瞬間にロリの顔つきが変わったのを見て、俺は気をよくした。


 もうひとりはいやだ。
 小さく震えるような声でロリがいって、俺はどうしていいのか、どう言葉を返せばいいのかわからなくなって、ただ彼女の前に突っ立っていることしかできなかった。さらさらと砂が風に流れる音がする。
「もうひとりはいやだ。あんたがあたしをひとりじゃなくしたくせに、勝手だわ」
 またロリがいう。目に涙が溜まる、こぼさないようにぎゅっと眉を寄せて目をいっぱいにあけて。
 別れようだとか終わりにしようだとかの言葉を彼女にいったのではない。元々ここには恋や愛といったものは存在しないし、家族すらいないのだ。なんと言葉にすればいいのかがわからなかったので、俺はロリを抱くのをやめた。そんな俺にロリはずるいといったのだった。
「あたしをどうせひとりにするんならはじめから手を出さなきゃよかったのに」
「俺はおまえより先に死ぬ」
「だからその前にあたしから離れるって?かっこわるい。ばかみたい、怖がり」
「おまえがいると、死ぬのが怖いんだ」
「……、かっこわるい」
 ロリが腕を伸ばして俺にしがみつく。小さい頭が胸に当たって泣きそうになった。いや泣かないけれど、俺は必死に唇を噛んだ。抱きしめ返そうとしたけれど腕が動かなかった。
 ほんとうに輪廻転生というやつがあるのなら、俺は人間になりたい。男でも女でもいい。そうして同じように生まれ代わったロリと暮らしたい。俺を俺と知らずに、ロリをロリと知らずに。破面になる前、虚になる前、もしかしたら俺たちは恋人同士だったのではなかろうか。だから死んでもかたちを変えても離れられないのだ。
 そんなことを考えている自分にヘドが出る。

 本気で信じていたのか、信じる気になったのか。
 人間をつくるとき、神様はひとつの魂をふたつの肉体に分けて入れた。ひとつの魂は惹かれ合い続ける。アホらしい。俺たちは人間じゃない。


title/耳
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