たまには一緒に昼食でもどうかとテスラに声をかけられた。テスラがなにも企まずにそのような提案をするとは思えなかったので、わたしは剣を持ったまま彼の自宮の扉をたたく。テーブルについてたのはテスラとノイトラだった。わたしはため息を漏らして、ほらね、と心のなかでつぶやいたのだった。
「おい、テスラ。聞いてねぇぞ。この女と一緒なんて」
「彼のまえでものなんか食べられないわ。気分が悪い」
「ネリエル様、そうおっしゃらないで。あなたのすきなものを揃えさせていますよ」
 テーブルに背を向けたとき、テスラが気を使った声色でなだめたので、わたしはしかたなくテーブルにすわろうとしたけれど、まずその席の位置から気に食わなかった。ノイトラの目の前だったのだ。テスラの持つテーブルは大きな長方形で、ゆっくりと十人もすわれそうなほどなのに、あえてまんなかに向かい合ってノイトラとわたしの席が用意されていた。
 テスラがなにを考えているのかは知らない、彼はいつもよくわからない。けれどノイトラの考えていることはおそろしいほどによくわかっていた。彼はわたしにおぞましくも恋をしているのだ。
 食事中の会話はほとんどなかった。ときどき、ぴりぴりとした空気をとろかそうとしているのだろうテスラが気の利いたせりふを口にしたけれど、わたしもノイトラも相槌の一言二言をぽつりぽつりと漏らすだけだった。
「彼がいると知っていたら、お断りするんだったのに」
 ごちそうさまの代わりにそういってわたしはテーブルを離れた。ノイトラの顔をちらりと見ると、ひどく傷ついているようだったので、わたしはデザートをもうひとついただいたような気分になって満足だった。


 なんだかよくわからないがさみしい。どうにかしてほしい。
 ノイトラがそういったとき、わたしは驚いてしまった。そのさみしさが自分にも少なからず理解できるからだ。けれどそのさみしさの原因も、それをとり除く術も、わたしは知らない。わたしが教えてほしいくらいのことを、彼はわたしにどうにかしてくれといってきた。
「そのさみしさを感じるのは女性だけだと思っていたわ」
 彼が心の弱い部分をさらけ出すたび、わたしは驚いて戸惑ってしまう。自分が戸惑っていることを知られたくなかったので、わたしは彼に目を合わせないままつめたくいった。
「そんなの、わたしのほうがどうにかしてほしい」
 先日の昼食を思い出して、わたしはほんのすこし愉快な気分になる。あのときのノイトラの表情はとてもかわいそうでおもしろかった。母親に突き放された子どものような顔をしていた。
「おまえはほんとうに俺がきらいだよな。きらいというより疎んでる」
「それがわかっていてどうしてわたしに近づくの」
「おまえが俺に近づいていた理由とおなじだ」
 ノイトラがわたしをいまのような目で見るまえに比べて、自分から彼に近づくことはほとんどなくなっていたのだった。
「おまえは俺が弱いのをあざ笑うために近づいていたんだろ。俺もおなじだ。いまのおまえは俺を怖がってるからな」
 ノイトラはうすく笑うとわたしの顎に指の先でふれた。おそろしくつめたい。


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