「なんかいつもと違ぇなぁ、におい」
 香水かえたんだ。ただそういえばいいものを、この馬鹿はわざわざ遠回しないい方をした上に(匂いの正体が香水だと気づいていないのかもしれないが)、俺の袖口や首筋に顔を寄せてくんくんとにおいを嗅ぎだした。
「ああ、香水が違うのかぁ」
 どうやら公衆の面前だということもすっかり忘れてしまっているらしい。久しぶりにランチは外でと誘った自分がばかみたいだ、これじゃどこで飯を食ったって変わりゃしない。
「なんでかえたんだぁ?あんたがいつもつけてる香水のほうが俺はすき」
 ナイフで小さく切り分けたチキンをスクアーロの皿に置く。スクアーロははっとしたようにフォークを握り、チキンの切れ端をつつくようにしてそれに乗せた。
「気分だ」
「じゃあ今日だけ?だよなあ、それ甘すぎだぜぇ。あんたっぽくねえよ」
 デート用に買った香水はお気に召してもらえなかったようだ。それに腹が立って、けれどもそれに気づかれても立つ瀬がない。
 メドックを喉に流し込み、もう一つのグラスにはムルソーを注いだ。ワインはもっと上品に飲めといわれたが、今日はとてもじゃないがそれはできない相談だ。なにも知らないスクアーロは、チキンより先に口に入った自分の髪に顔をしかめた。


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