「で、なんだって?乱交パーティー?」
「親交パーティーだっていってんだろぉ!何度もいわすなぁ」
ボス御用達のブランドショップで何度も何度も繰り返すこのやりとり。二度目まではボスの悪ふざけかとも思ったが、結局のところ彼は俺の言葉などに興味がないのだ。だから俺が返事をしてもそれにうなずきもしないでしばらく宙を見つめたあと、また同じことを同じ口調で質問する。
「なあ、これとこれどっちがいいと思う」
スタッフが俺に勧めた二着のスーツを指さしながら聞いた。俺のために服を選んでくれるような男とは思えないが一応聞いておかないとあとが怖いのだ。二、三日経ってからその服はどうしたんだという尋問が始まる。一緒に買いにいったじゃねえかという訴えなんて聞き入れてもらえるはずがない。
VIPルームの大きなソファに並べられた二着のスーツはどちらも黒で、大きな違いといえば片方が極端に細身だということくらいだ。どっちがいいかと聞いても俺はこの細い方のスーツを購入するのだろうけれど。
「着てみろ」
「え」
「いやなら両方買え」
いやだなんていってない、びっくりしただけだ。返事をする前にボスは俺の腕をつかんでフィッティングルームへ押し込むと、なぜか二着のスーツを抱えて自分もフィッティングルームへ入る。しゃ、っとてらてらしたカーテンを閉めるボス。俺はされるがままにボスの手で上着とスラックスを脱がされ、あっという間にぱりぱりのスーツを着せられた。途中髪が邪魔だったのか何度も舌打ちをされたけれど、俺は思いもしないボスの行動がくすぐったくてしかたなかった。
「こっちだな」
俺が買うつもりだった細身のスーツを纏った俺をじろじろ見てボスがにやりと笑う。満足そうでなによりだ。
「これもいる」
着せ替え人形のようにおとなしくしている俺を残してボスはひとりフィッティングルームを出ると、すぐにふわふわのラビットファーを持って戻ってきた。黒ともグレイともいえない艶やかなそれを俺の首に巻きつけ、少し離れた場所からまた俺の全身を見て口元をほんの少し上げる。
「髪は上げたほうがいいな、髪の上から巻いてもいいか…でも上げるなら前髪も上げたほうがいいな」
あんたはいつからスタイリストなったんだ。ちくしょう、かっこよくて腹が立つ。
「で、どこに着ていくんだっけ?乱交パーティー?」
「……、そんなもんにうさぎを連れていくことはできねえなぁ」