彼がわたしのなかで果てるとき、まるで蝋燭がとろとろととけるようだった。彼は何色の蝋燭だろう。黒ではひねりがないし白はおこがましいと思う。深い赤色の蝋燭だろうか。

玄界に到着するまであと12時間ほどかかるとのことだった。それまでに仮眠をと思って自分の部屋に入ってから、どれくらいの時間が経ったのだろう。背後から忍び込んだエネドラにベッドへ連れ込まれたあとは、もう気にも留めなくなってしまっていた。
「もう一回、いいだろ」
わたしの耳元で、乱れた呼吸の合間にエネドラが聞く。開いた足の間にからだを沈めたままだ。たったいま、セックスが終わったところ。まだつながったままでいるから終わったと言ってしまうのはさびしいことだな、まだ途中ということにしよう、と頬に貼りついた彼の髪を手の甲で払いのけながら思った。男のくせに絹のような髪だ。
「一度、抜いてちょうだい。汚れるから」
「そのあいだに服を着るんだろ」
「着ない……、から、っ」
エネドラがぐっとわたしの奥を突いた。くたくたになって細かく痙攣していた両足にまた力が入る。遠のいていた快感が、じわりじわりとわたしのからだをなめ始める。払いのけたばかりの髪がまたわたしの顔にかかり、そこに移ったエネドラの熱にくらくらした。
「……っ、ン、ミラ、ミラ」
まるで女の子のように鼻から抜けるかわいらしい声を出し、わたしの頭を抱きしめる。わたしも彼の頭をつかんで、噛みつくようにキスをした。エネドラのくちびるは汗か涙かで濡れていた。いとしい子だ、からだを離すとわたしが逃げると思っているのだ。
まだまだおさないころ、まだどちらにも角がついていなかったころにわたしたちは出会った。寄り添うように支え合うように、慰め合うようにして生きてきたのだった。それぞれに角が与えられ、力が与えられていくなかでわたしたちは少しずつ離れてゆき、そのことをふたりともがとてもおそろしく思った。
「おまえが、結婚したら、もう会えねぇな」
小さな声でエネドラが漏らす。わたしは彼の顔をなで、その口に指を入れた。
「聞いたのね」
この遠征が終わり、アフトクラトルへ戻ったらわたしは結婚することになっている。当事者なのにおかしな話だ、いまだにあの兄弟のどちらと結婚するのかは決まっていない。お得意のデータ称号で決めるのだろう、優秀なこどもを孕ませられるのはどちらかを。
「この国に拾われたときから決まっていたのよ」
エネドラの舌をさわり、頬の内側を引っかいた。じっとわたしを見つめるその顔は子どものころと同じままだ。角がちがう。右目がちがう。誰も彼にほんとうのことを教えはしないけれど、それは彼のことを思ってではない。そんなわけがない。都合よく使い捨てるためだ。
「もうこんなことはできなくなるけれど、わたしは、あなたを」
わたしのいない世界で、彼は生きていけるだろうか?
「痛っ」
指先に鋭い痛みが走って思わず声を上げた。わたしの人差し指をエネドラが噛んだのだ。その表情に、先ほどまでの情けなさは微塵も残っていない。わたしを蔑むような冷たい目で見下ろしている。
「ハイレインにしろランバネインにしろ、俺の使用済みを抱くことになんのか。気分いいぜ。これが最後になるかもしれねぇんだから、時間ギリギリまで付き合ってくれんだろ?うしろ向けよ」
わたしの指を吐き出したエネドラはそう言うと、わたしの頭をつかんで無理やりにからだを裏返した。息をつく余裕も与えられないまま背中にエネドラがのしかかる。差し込まれるぺニスがほんとうにエネドラのものなのか、じんじんと痛む人差し指からは血が出ているのか、がくがくと揺さぶられながらわたしは考えていた。彼のいない世界で生きていけないと思っていたのはわたしのほうだ。もう、わたしのエネドラは死んでしまったのだろうか。


泥の王だけを回収しエネドラは殺すよう命令が下った。命令されたからには従うほかないのだが、わたしはおそろしいことに、どこか安堵したのだった。これで惑わされることなく結婚できると思ったし、どんどん彼が彼でなくなっていく様をこれ以上見なくてもいいのだと思うと、命令を下されたことに感謝さえしたほどだ。最後に触れたのはわたしのからだのなかを何度もかき回した彼の手だった。何度もセックスをした、彼の生身のからだ。ほんとうは持って帰って、撫でてキスをして抱きしめながら眠りたかったけれど、どうせすぐにひとりで眠ることを許されなくなるのだからと諦めた。嫁入り道具にあの子の腕を持っていったら、眠っているうちに首でも絞められそうだもの。


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