サボくんがわたしの首にかみついた。あつい舌が這うより、歯を立ててくれたらいい、そう思っていたら、ほんとうに彼の犬歯がわたしの肉にぐっと押しつけられて、思わず声が漏れた。
いま閉めたばかりのドアに背中を押しつけられる。うすい木の板ががたがたと鳴る。さびれた裏町のモーテルの一室は、黴くさいようなほこりっぽいにおいがした。日の当たらない図書館のにおいに似ていると思った。人と古書と洗われないソファカバーのにおい。
サボくんのハットが軽い音を立てて床に転がった。首をかしげたからだ。歯でわたしの首すじをかじるようにしながら、息を切らしてシャツのボタンをはずそうとしたところで、グローブをはめたままだったことに気づいた彼と目を合わせて笑った。
「はじめてみたいに興奮してる」
「わたしも」
中指の先をくわえて噛んだまま腕を引き、サボくんがグローブを外した。もう片方の人差し指をわたしの口にそっと近づけてきたので、おなじようにくわえると、すっと彼の腕が抜ける。サボくんには悪いけれど、キスがしたくて口を開いた。グローブも床に落ちる。今度はわたしが彼のくちびるにかみついた。左足をサボくんに絡めるようにしてからだを引き寄せる。上げたふとももをあつい手のひらが滑り、そのままスカートの中に侵入してわたしの下着をずり下げた。器用に片足を抜くあいだにサボくんがズボンのジッパーを下ろす。
はやく、はやく。はやく、
またわたしは片足を上げて、サボくんがからだを押し入れるのをすこしだけ手伝った。さわられてもいないのにわたしのからだは彼を受け入れるには十分すぎるほどで、そのことを彼が喜んでいるのがすぐにわかり、わたしもとてもうれしかった。彼は肩を震わせながら、声にならない声とあつい息を吐いた。
サボくんが強くわたしを抱きしめる。わたしは短く息を吐きながら、サボくんを抱きしめ返した。
「また会えた。やっと会えた」
「もう、会えないかと、思った?」
「いや、そうは思わないようにしてる。死にたくなるから」
「そうだね。わたしも」
わたしはサボくんの頬にキスをして、そのまま彼の傷痕をなめた。彼が子どものころ負ったやけどのあと。ちいさなちいさな、いとしい子どもの姿のサボくんを思い浮かべる。つった皮膚はそこだけべつのもののようだ。舌のざりざりと這う音が、いとしい子どもには聞こえているだろうか。
「ンッ……、コ、アラ、」
ああ、きもちよさそうな声。
わたしのなかでペニスが震えた。そのあとは、堰を切ったように腰を打ちつけられて、わたしはひたすら高い声を上げることしかできなかった。



ベッドの下の方に見えた白い足が、ぼうっとした頭では自分のものだとはすぐにわからなくて、試しにすこし動かしてみる。自分が思う通りにぴくりと動いた。自分の足だ。となりにいるのはサボくんで、これはわたしの足。間違いなく、わたしとサボくんは一緒にいるし、たったいまセックスをしたばかりだ、ああほんとうに。
「うれしい」
思わずぽつりとこぼすと、うとうとしていたサボくんがちいさな声で唸った。
「おれも」
昨日まで、わたしたちは別々の場所にいた。任務の途中ではぐれることを余儀無くされたからだ。彼の姿を再び見るまでは生きた心地がしなかった。双子どうしが離れられないこととよく似ていると思っている。もっと深いものかもしれない、片方が死ねばもう片方も死ぬくらいには。
「このままとけてひとつになっちゃいたい」
サボくんの足に自分の足をからめながら言うと、サボくんは起き上がってわたしの背中をなめ始めた。彼はなにも言わない。ふたりは、おなじことを考えているから。
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