「なんもしてへんのに汗かくんは癪や。どうせやったら汗かくことしよう」
色気のかけらもない僕の言葉に、乱菊はあきれてものもいえない、というような表情でふり返った。汗で首筋に貼りつく髪をうっとうしそうに払いながら、彼女は深い深いため息をつく。
「いやよ。なんでこの馬鹿みたいに暑いときに、あんたとニャンニャンしないといけないわけ。あんたって見てるだけで暑苦しいのよ、死ねばいいのに」
「死ねとかまでゆうんか。そこまで僕とやりとーないんか」
「そんなにやりたいんならクーラー買ってきて」
電気通ってへんから無理、ばかにしたように返事をすると、ついに乱菊にビンタをくらわされた。頬に当たった彼女の手のひらはこの暑さの中だというのにとてもさらさらとしていて気持ちよかった。それを言うと変態扱いされるから口には出さないが。
「かき氷でも食べいかへん」
「いく」
きっと外はここの何倍も暑い。彼女の小さな隊長さんが非番だと聞いたものだから、今日は一日中彼女のそばにいようと、物足りない金髪の彼の手を逃れて彼女の元へきたはいいけれど。
「日番谷隊長がおらへんかったら、十番隊もうちとおんなじくらい暑いなあ」
「あたしも次からは隊長と同じ日に休みとろうっと」
「あかん、あかん。それは」
「なんで。あーなに食べよう。いちごと宇治と、メロンと…」
「全部混ぜたらええやん」
蜜の味をあれやこれや悩む乱菊の手をこっそりとさわった。さわらないで、熱い!なんて怒鳴られて、本日二発目のビンタを頂戴するのは、もちろん覚悟の上だ。