まるで恋人のように手を繋いで人目も気にせず銀時は土方をラブホテルへと連れ込んだ。適当な部屋を選んでさっさとエレベーターに乗ってしまえば密室の無音が土方には気まずい。三階までがやけに遠く感じ、ようやくエレベーターの扉が開くまで土方は息をするのも忘れていた。引っ張られるようにして静かな廊下を歩いていく。通り過ぎたいくつかの部屋では一体何組のカップルがセックスをしているのだろうか。そして中には自分たちのような男同士のカップルもいるのだろうか。土方がそうこう考えているうちに部屋に着いたらしく銀時が乱暴にドアを開く。雑に靴を脱ぎ捨てて部屋に上がればなんてことない、ビジネスホテルと変わらないような簡素な部屋だ。銀時にも土方にも何か小道具を必要とするような性癖があるわけではないのでベッドさえあればそれで構わなかった。
「何か飲むか」
土方が隊服の上着を脱ぎながら銀時に訪ねる。冷蔵庫にはビールや缶チューハイがいくつか用意されている。いや、と銀時が言うのでそうかと返して土方は冷蔵庫の戸を閉める。本当に静かな夜だ。外からは車の音さえ聞こえて来ない。今日の土方は妙に沈黙を恐れている。とっさにテレビのリモコンに手を伸ばし、しかしその手はあっさりと銀時に捕まえられてしまった。風呂は。土方が消えそうな声で言う。銀時はそれを無視して土方の唇を割って舌を入れた。生温い銀時の舌が動き回るのを必死に受け入れながら土方は閉じていた目を薄く開く。ぼやける視界で銀時の赤い瞳を見た。
「…暑い」
ベッドに寝かされた土方はすでに殆どの衣類を脱がされている。土方の上に跨った銀時が汗をかきながら己の衣服を脱ぎ去り、汗ばんだ肌が重なった。
銀時が土方の耳、首筋、肩、鎖骨、と少しずつ下へ向かって舌を這わせていく。銀時の尖らせた舌が期待でつんと立ち上がった土方の乳首を掠めて土方の身体がひくりと跳ねた。銀時の愛撫に焦らす様子はない。普段は焦らしに焦らしてよがる土方を眺めて悦ぶような銀時だ。それを珍しく思いながら土方は銀時の優しい愛撫を全身に受けて耐えることもなく声を出した。内腿を湿った手のひらが這い回る。土方は思わず揺れる腰に羞恥を感じるが銀時の表情からそれをからかう様子は見てとれなかった。すぐに中心を掴まれてゆるゆるとしごかれれば快楽に従順に、土方は顔を歪めて喘いだ。
「銀時、なん、で、…ひっ」
「なんで優しくするのかって?」
「ん、…ああっ」
銀時の唾液にまみれた指が土方の穴へ滑り込み、土方は一層高い声をあげる。中をぐるりぐるりとほぐされながら中心をしごかれて土方はこれ以上言葉らしい言葉を口にすることが出来なかった。
「聞いたぜ、結婚するんだってな、せいりゃくけっこん」
「っあ、あ…なん…っ」
「さぞ良いとこのお嬢さんなんだろ?俺がするみたく優しく抱いてやらなきゃなァ」
赤い瞳が近付いて来て唇が重なる。同時に充分にほぐされた土方の中を割って銀時が挿ってきて、土方は待ち望んだ感覚に身体をしならせた。しかし依然として"優しいセックス"を貫くつもりらしい銀時のゆるゆる動く腰が土方にはもどかしく気が付けば自ら腰を振っていた。もっと激しく。もっと乱暴に。殴ったって構わない。銀時が土方の最奥を突くたび土方は銀時、銀時と叫ぶように銀時の名を呼んだ。銀時が土方の名を呼んだのは達する寸前のただ一度だけであった。
「おしまいだなァ」
「ああ、おしまいだ」
「俺と土方ってなんだったんだろう、少なくとも恋人ではなかったと俺は思ってる」
「当たり前だ、んな甘ったるいもん」
「なら何がおしまいなんだろう」
土方がシャワーを浴びて戻って来ると銀時は先程と同じ体勢でベッドに仰向けに寝転んでいた。土方は清めたばかりの身体でその隣に潜り込み、同じように天井を眺める。狭いベッド。当たり前だ。男女がセックスをするために用意されたもので、こんなにがたいの良い男が二人で使うために用意されたものではないのだから。
「わかんなくてもおしまいってのは妙なもんだ」
「そうか」
「土方」
「…なんだ」
「俺、もしかしたらおまえのこと好きだったのかもしれない、だって」
土方が銀時の横顔を見る。天井を眺めたままの赤い瞳から涙が零れるのを見た。土方はああ、とあてもない返事をして銀時の手を握るとつい笑ってしまった。だってこうしていると恋人みたいではないか。何がおしまいなのかわからない日がこんなにも哀しいなんて。


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