「ぶへっくしっ」
くしゃみをして、鼻をすする。さっきいたティッシュ配りから貰っとけばよかったと恨めしく来た道を振り返る銀時の隣を土方が半歩離れる。
「風邪か?移すんじゃねーぞ」
「ちげーよ、花粉症だ。うっわ目ェ痒い」
秋雨が上がった所で家を出たのだ。からっと晴れたので喜んだのだが、秋に晴れたら花粉が飛ぶことを失念していた。
「花粉症は春だろ、テメーの頭ン中と一緒だ」
「ばっかお前、秋もあんだよ。ブタクサのヤロウが猛威を奮ってんだ」
「季節によって違うのか」
「そ。春のスギは平気なんだけど…はー…秋だなぁ」
毎年忘れていて、くしゃみが止まらなくてやっと思い出すのだ。何度もくしゃみをしていると見かねた土方が水に流せるティッシュをくれたから感動してお母さんと言ってしまった。
目当ての店はすぐ見つかった。わざと古く見える店構えに提灯が掛かっている。引き戸を開けると威勢のいい挨拶をされた。
「よっ長谷川さん」
手をあげると薄暗い店内でもサングラスをかけた店員が二人を出迎えに来る。
「おお銀さん、来てくれたんだな。土方さんも一緒か。カウンターと座敷どっち座る?」
まだ空いてる店内のカウンター席に並んで座りおしぼりを受け取る。
建物に入ってもなかなか鼻水は止まらず、一度トイレに行って鼻をかんだ。戻ると煙草を吸っている土方に冷やでいいだろと言われ、返事するより早くカウンター越しにグラスが出てきた。
「はいお通し」
細長いグラスに入っているのは日本酒ではなく野菜だ。
「なんだ、野菜スティックか?随分シャレてんなぁ」
「はは、たまにはいいだろ」
キュウリや大根と一緒に茎のような青い野菜があった。匂いを嗅ごうにも鼻が詰まっていて、なんだか分からないまま小皿の味噌マヨネーズを付けて齧ってみた。
「にげっ」
驚いて吐き出そうとしたがさすがに悪いと思い、ちょうどテーブルに出てきたおちょこで日本酒を飲み干してから叫んだ。
「なんだこりゃ!」
「セロリだよ、秋が旬なんだ」
カウンター越しにとっくりを渡し、土方が煙草をくわえたまま受け取る。
「長谷川さん居酒屋の店員っぽいな」
「当然だろ店員なんだから。慣れるとクセになるぜ」
余裕ぶって会話している土方に勧めるとシャリと噛んで、確かに苦いと少し眉をしかめた。
「けどゴーヤほどじゃねぇな」
「食べなれてる分ゴーヤの方がマシじゃね?長谷川さんゴーヤチャンプルちょうだい」
「ないよ、メニュー見てよ」
長谷川は笑いながら銀時に手書きのメニューを渡す。隣で土方は小皿にマイマヨネーズを出してまだセロリを食べている。
「慣れると旨いもんだな」
「お前はただマヨネーズ食ってるだけだろ」
「旨いんだからいいだろうが。おススメは?」
「秋刀魚の刺身。うまいぜ」
「じゃあそれと枝豆、蓮根のはさみ揚げ、ししゃもの炙り。坂田、串いるか?」
テーブルのおちょこはふたつとも空になっている。互いに注ぎ合って一口飲んで息を吐く。
「秋は旨いもんばっかだからまた血糖値上がるわー」
冷えた枝豆が出てきた。銀時は すぐに手を出すが土方はニンジンのスティックをマヨネーズまみれにして食べている。気に入ったのか、セロリはグラスから消えていた。
「上がるって分かってんなら気をつけろよ」
「今が一番旨いって分かってるから食うんだろうが。ほら、デザート見ろ!栗!ぶどう!プリン!パフェ!」
甘党への誘惑は一年中そこらに転がってる。でも旬の果物は旬のときに頂きたい。にやけながらメニューを見ている銀時に呆れながら土方は次の煙草を取り出す。
「楽しみがあって結構なこった」
「秋は誕生日もあるしな!ケーキ期待してるぜ副長さん」
銀時は機嫌良く肩を叩くが、土方は煙草を持ったまま驚いた顔で固まっている。
「…え、お前秋生まれなの?」
「…嘘だろ?」


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