一番残酷なのは小学生。虫の羽根引き裂くことから始まって蛙の腹に爆竹入れて飛び散った内臓をスニーカーで踏んで汚ねぇって笑う。野良犬や野良猫が犠牲になることもあるけど、それは大概中二病真っ盛りの奴ら。意味が分かってやってるのは残酷じゃない、バカなだけだ。
じゃあ一番バカなのはいつかって言うとその確信犯の中学生だ。閉鎖的な集団は傲慢で臆病で、特定を差別することでしか仲間意識を持てない。イジメはなくならないことなんかギャンブル中毒の先生が一番分かってんだろ。やられるヤツは親にも友達にも見栄があるから相談できないんだから、逃げ方くらい教えてやるべきだ。イジメてる側をイケてるって勘違いしてんのも中学生まで。みんなそれが嫌でため込んで高校デビューして初めて付き合った女と生でセックスして妊娠させて承諾書にサインして十数万払って堕胎させる。罪悪感なんか勧められたハッパやりゃ忘れられる。だからこの国の死亡原因の上位に堕胎があるんだよ。扶養されてる間は性教育くらい聞いとけ。
そんなこと言ってるオレは中途半端な二十代半ばだ。仕事は転々としている。恋人はいつからいないか忘れてしまった。安い酒場で居合わせた頭悪そうな女を廃墟ビルの柱に立たせて突っ込むだけのセックスをすることが月に一度あるかないか。荒んでいると言われたら苦笑いしかできない。
朝日の眩しさに目を擦りながらふらつく足でコンビニにジャンプを買いに行くと、朝の六時だというのにキレイなツラした制服姿のガキがいた。新連載と書かれた雑誌を一冊取ってすぐ横でコピーをしているソイツに声をかける。
「お前いくつ」
怪訝そうに見上げた顔は幼かった。
「中二」
「ぶはっ、マジで!?人生で一番愚かな時期じゃんかよ、かっわいそーだな」
こんな朝早くコピーしてるなんてどうせノートの写しのパシリで、夜は親の監視があるんだろう。納得してレジに向かうオレに年の割に低めの声がかかる。
「あんただってそうだろ」
振り返るとガキは釣銭のボタンを押していた。小銭の落ちる音が静かな店内に響くのはなんとなく恥ずかしい。
「オレたちはいつだって絶望と再生を繰り返しながら支え合って必死で生きてる。でも結局は自分さえよけりゃいいんだ。みんなバカだ。それに年なんざ関係ねぇ」
釣銭をポケットに突っ込んで機械を開けるとキャンパスノートを取り、コピーの束と一緒に脇に抱え通り過ぎようとする。咄嗟に肩を掴み、話しをしようと言ってからナンパじゃねーかって気付いた。
ガキは土方と名乗った。近所の中学に通っていて風紀委員だから早く出るまでと条件つきでコンビニの裏についてきた。駐車場になっているが、実際は客の目に触れにくい荷物置き場だ。
学校は楽しくないが部活は楽しいと話すから笑ってしまった。クラスで自分を出せずにいるタイプなんだろう。鬱憤は溜まっているはずだ。でなきゃ酒の匂いがする社会人に噛みついたりしない。
「坂田サンはどんな中学生だったんだ」
ブロック塀に寄りかかりながら、社交辞令のようにそう聞いてきた。
「オレはクズだったなー。授業は寝てたし、年上の女とつきあったんだけど浮気されて揉めたり、とかそんなカンジ」
「普通だな」
「まぁな。武勇伝はねぇわ」
話しながら、そんなオレが人生観を語るなんて笑い草だと思った。人に押し付けるほどの価値のある経験をしていない。
振り返って青いのが青春だと聞いたことがある。オレの中学生に対する憎悪に近い嫌悪感と同情はその後の人生から振り返った時どうしようもなかった反省からきているのかもしれない。親心みたいなもんか?
ガキにそんなことをいうことはなかった。なんで土方に絡んだのか、興味を持ったのか考えてみると、やっぱりこいつの顔がキレイだったからだろう。親の言いつけを守り夜間ではなく早朝にコンビニでノートをコピーする一見真面目そうな美少年。
「なぁ、セックスしねえ?」
からかい半分でそう言ってみた。残り半分は顔を赤らめて変態って罵られるのだろうと期待したのだ。
「変態だったんだなアンタ」
予想どうりの反応にへらりと笑いながら安いワンカップを煽る。隣から手が伸びそれを取り上げ、下に落とした。コンクリートに流れていく酒を見ながら遠慮なくしがみついてくる中学生からはアイロンがかかった清潔な香りがした。
前戯もキスもろくにせず擦り合って出した精液を使い、挿入した。駐車場からオレたちを隠すのは重なった空箱と室外機だけ。人が来たら即アウトだ。
二回もイッたくせにアンタのせいで時間がないと文句を言って慌ててスラックスを上げた土方に連絡先を聞き、コピーとノートを抱えて恐る恐るといったふうに歩いて行く背中にひらひらと手を振った。
しかし酒に酔ったオレが電話番号を正しく記憶できるハズはなく、寝て起きると全てが夢だったような気がして現実味がなかった。
季節が変わる頃、向かいから歩いてくる登校中の学生の中に土方の姿を見つけた。可愛らしい女と歩いていて、距離があったが雰囲気で彼女だと分かった。
「トシ〜!頼む!ノート写させて!」
「またかよ近藤さん。アンタ前に写さないでコピーのまま提出して反省レポート書かされたじゃねーか。学習しろよ」
「無理無理!授業とか寝ちゃうもん」
「ふふっ。十四郎さんはみんなに頼られてるんですね」
「ミツバさん、またコイツに惚れ直すんじゃねーの?」
「うっせーよゴリラ。茶化すなら貸さねーかんな」
テレビの中でしか存在しないはずの爽やかな笑い声が響く。
なんだそいつ、なんだそいつ。
酔っ払いとヤッてそのまま学校行くようなヤツだぞ。それがなんだその爽やかさ。腹に抱えてるもん隠して生きてんのか。夜ならまだしも朝っぱらからコンビニの駐車場で男とセックスする判断が衝動の一言で片づけられるもんか。
やっぱりこいつも達観したようなフリしたバカだ。過ちってやつはたった一回でもなかったことになんかできないんだ。だってお前は忘れてない。今、すれ違う時オレを見て怯えたろ。


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