※兄妹


 わたしとゾロは昔から仲の悪い双子だった。ゾロのほうが兄ということになっているけれど、まずそれが気に食わなかった。言い合いも殴り合いも日常茶飯事だったし、わたしがすきなものをことごとく否定するし、あいつのすきなものにもわたしは一切興味を持てない。家族でなかったなら絶対に関わりたくない!わたしがいえばゾロもそういった。
 高校を卒業するときに両親がわたしたちふたりを家に残して海外で暮らすと決めたとき、絶対にいやだと最後の最後まで訴え続けたのに、父も母も仲よくがんばってねーなんていってのんきに家を出ていった。高校までは同じ学校に通っていたがゾロは体育大学に、わたしは服飾系の専門学校に進学した。アパートで一人暮らしをするというわたしを両親は許してくれなかったので、ゾロとふたりで家に残らなければならなくなった。
 両親は生活費と学費を出してはくれたけれど、お小遣いに回すほどはもちろん残らなかった。学校が終わってからドーナツで有名なチェーン店にバイトにいって、ゾロがいる家に帰る。


 ソファでいびきをかいていたゾロの脇腹を思いきり蹴った。それくらいじゃわたしの怒りはおさまらなくて、目をさまし脇腹を押さえる彼にビンタもくらわせた。それでも足りない。
「てめっ、なにすんだ!」
「てめーがなにすんだ!わたしが録画しておいたオカルト特番、消去しただろ!」
 テレビを指さしてわたしは叫ぶ。頭がくらくらするほどに興奮していたのでいつのまにか泣いていた。あふれてくる涙をぬぐうことも忘れてゾロを殴ろうと手を上げるが、腕をつかまれてそのあとはぜんぶ空振りだった。
 一週間前から放送を楽しみにしていたオカルト特番。今夜7時から2時間、たしかにハードディスクに予約したのを確認してからわたしはバイトに出かけたのだ。それが、どれだけ探しても、見当たらない。日曜だったのでゾロは一日中家にいたはずだ。それでなくてもわたしがデータを消去していないのだからゾロがそうしたに決まっている。
「今日は、あれ観るのだけを楽しみに、ドーナツ売ってきたのに!」
「泣くなよ、うるせえな!それよりさっさと風呂に入ってこい、油くさくてたまんねえんだよ」
 バイト帰りのわたしはたしかに油くさい。5時間のあいだずっと、ドーナツを揚げては並べ揚げては並べを繰り返すのだからほんとうに油くさい。自分で吐き気がするくらい。けれどもういいようがないほどに腹が立っていてとてもかなしくて、とうとうわたしはわんわんと泣き出してしまった。ゾロがわたしのツインテールの片方をひっぱって立ち上がる。リビングを出て廊下をとおりすぎ、バスルームに押しこまれた。
「絶対、絶対、許さねーからな、ゾロのばか!」
 泣きながらわたしはシャワーを浴びた。

 シャワーを終えてリビングに戻るころにはだいぶ気持ちは落ち着いていたけれど、オカルト特番を見逃したことがそれはそれはかなしくて、思い出すたびにまた泣いてしまいそうになる。かなしさのほうが勝ってゾロに対する怒りはほとんど薄くなっていたけれど。
 リビングに戻るとゾロの姿がなかった。時計は23時を回っていたので自分の部屋にいったのかもしれない、そう考えていると玄関のほうからドアが開く音が聞こえた。
 わたしたちのあいだにはただいまもおかえりもない。どこかへ出かけていたらしいゾロはリビングで髪を拭くわたしに、ほら、と透明なケースに入ったDVDを差しだした。
「録画するまえになんで気づかねぇんだ、ハードディスクの容量がゼロになってたろ。これはビビに焼いてもらってきた」
 ビビ。わたしたちの高校の同級生で、ゾロの彼女だ。けれどわたしは特別ビビと仲がいいわけでもないし、彼女にオカルトの趣味があるなんて聞いたこともない。ましてやオカルト特番を録画するビビなんて想像もつかない。
「俺ぁ、ペローナがあの特番を録画予約してるって知らなかったんだよ。ハードの容量がゼロになってんの知ってたから、ビビに昨日のうちから頼んでたんだ。おまえはバイトで観られねぇんだろうと思って」
「頼んでくれたのか、わたしのために」
 妹だからな、ゾロはしかたなさそうにいった。わたしはぜんぶ自分のせいだったことに気づいたけれど、彼に謝るためのことばをわたしは知らない。ゾロからDVDを受けとって、うつむいたままでいった。
「いっしょに観るか?」
 ゾロはオカルトやホラーに興味がない。けれどほかにことばが浮かばなかった。
「おう。付き合ってやる。酒も買ってきたしな」
 たぶん明日になればまた、喧嘩するんだろうけれど。おそらくビールが入っているコンビニのビニール袋をテーブルに置き、ゾロがテレビの電源をつけた。


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