「銀ちゃんとマヨラー、ドッキング大作戦アル」
 神楽ちゃんは真剣な表情でそう宣言すると、和室の襖をぱーんと勢いよく開けた。まだ真っ昼間だというにも関わらず、きれいに敷かれた布団にふたつ並んだ枕、そしてそのとなりにはごていねいに箱ティッシュが置かれていた。
「神楽ちゃん!?どこで覚えたの、だめだよこんなこと知ってちゃだめ!」
「最近銀ちゃんの元気がないアル。道端でマヨラーと出くわすたびにため息ついてるヨ。あれは間違いなく恋わずらいアル。銀ちゃんの元気をとり戻すためには、マヨラーに人柱になってもらうしかないアル」
 僕が慌てて布団をかたづけようとすると神楽ちゃんに羽交い絞めにされた。邪魔するなということなんだろう。近頃の銀さんの元気がないことには僕も気づいていたけれど、まさか土方さんへの恋わずらいが原因なわけがない。だってあの銀さんだ。女の子がだいすきな銀さんだ。
「銀さんが、パチンコから帰ってくるまえに、片づけないと……!僕がへんなことを神楽ちゃんに教えたって、叱られちゃうよ」
 首をぎりぎりと絞められながらうめくようにいった。が、なんというタイミングか、玄関のほうから銀さんの声が聞こえた。
「神楽、新八、今日は勝ったぜー。すきやきしよう、すきやき」
「俺のおかげだろ、俺があそこで千円貸さなきゃ当たらなかった」
 聞こえたのは、浮ついた銀さんの声だけではなかった。
「マヨラーアル」
 神楽ちゃんが僕から離れ、ぱたぱたと玄関に走っていく。追いかけるように自分も玄関へ向かうと、土方さんが、よぉ、と僕らに手をあげた。
「すきやきもいいけどよ、何ヶ月ぶんか、家賃滞納してるっつってたろ。払うもんは払っとけよ。そこまで面倒見きれねえぞ」
「わかってるって。今日くらいいいじゃん、土方もうちで食っていけよ、すきやき。あ、焼肉食い放題にする?神楽、どっちがいい?」
「食い放題!」
「じゃ、いくかぁ」
 神楽ちゃんが嬉々として靴をつっかける。和室の布団のことはすっかり忘れているんだろう、頭のなかにはもう食べることしかないに決まっている。
 銀さんはごく自然に土方さんを食事に誘い、土方さんも、今日は休みだしなーなんていいながらめずらしくやわらかな表情で煙草をふかしていた。違和感だらけで頭がこんがらがってくる。このふたり、こんなに仲がよかったですか?
「ちょ、ちょっと待って、いや、先にいっててください。和室を片づけてからいくんで」
「和室?」
 銀さんが聞く。しまった。
「あっ、忘れてたネ。銀ちゃんとマヨラー、ドッキング大作戦!でもふたりとも……、必要なさそうアルな」
 神楽ちゃんがにたりと笑った。土方さんが煙草にむせながらそそくさと万事屋の玄関を出ていく。はやくはやくと彼女に袖を引っぱられて草履を踏みつける僕に、銀さんがちいさな声でいった。
「神楽のほうが勘がいいみてえだな、新八くん。覚えとけ、女はこわいいきものだよ」
「ぎ、銀さんの元気が、最近なかったのって」
「あいつが仕事仕事で忙しくて、あっちのほうがご無沙汰だったからだ」
 おとなも十分、こわいいきものだ。


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