旅に出ます、さがしてください。
 ハルのなめらかな字でそう書かれたメモを見つけた俺はすぐにロマーリオに電話をかけた。ベッドから飛び下りて、何度もメモを読み返す。ふつうはさがさないでくださいと書くもんじゃないのか。
 ダイニングのテーブルの上にはフレンチトーストとスクランブルエッグが用意されていた。コーヒーも沸いている。家を出るまえに、ハルが用意していたものだ。けれど彼女が朝食を食べた形跡はなかった。俺のぶんだけをいつものように用意して彼女は部屋を出ていったのだ。
「ロマーリオ、ハルがいなくなった。どうしよう。さがしてくれ」
 まだフレンチトーストからはほんのりと湯気がのぼっている。
「ハルなら綱吉たちと紅葉を見にいくって、昨日だったか、そういってたじゃねえか」
 してやられた。たしかにハルは昨日そんなことをいっていた気がする。ロマーリオとの電話を切ったあと、ハルの携帯に電話をしてみた。出ない。ツナにかけてハルのことを尋ねる。
「え、ハル?一緒ですよ。ビアンキたちがもみじ狩りの計画を立ててたんです。俺は荷物持ちで付き合わされてるんですけど……、ディーノさんは今日、都合が悪いって聞きましたよ。いっしょにこられたらよかったのに」
 ますますしてやられた。ハルにかわってくれと頼むと電話が切れた。ハルが切らせたのだろう。
 とりあえずさがしてくださいとメモにはあったので、さがしにいくことにしようと、大急ぎで着替えて玄関に向かった。靴紐を結ぶことに四苦八苦していると、ふいに玄関のドアががちゃりと開いた。
「ただいまです」
 ハルだった。
「あれ、まだあまいにおいがする。朝食、食べてくれてないんですか?せっかく用意してから出かけたのに」
 出かける予定だった場所の紅葉はとっくに終わっていると、さきほどの電話を切ったあとリボーンがいったらしい。それじゃあピクニックに切り替えましょうと提案したのはビアンキだったらしいが、ハルはそれにいくのをやめたという。
「さがしてくださいって、なんだよ、これ」
 ぐしゃぐしゃに握りつぶしたメモをハルにさしだした。
「いたずらです。さがさないでください、じゃ、おもしろくないと思ったから」
 ぐるぐると首に巻きつけたニットのマフラーをほどきながら、ハルは玄関に座りこむ俺のまえでブーツを脱いだ。
「やっぱり髪を切るのはあたたかくなってからにすればよかったです。うなじが、さむい」
「ハル」
 ボルドーのタイツを履いた細い足にしがみつく。
「さみしかったでしょう」
「さみしかった」
 外気をまとったつめたいからだにふわふわとつつみこむようにだきしめられて、俺は、いますぐにセックスがしたいと彼女にいった。


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