髪を切ろうかと思う、というと、恋次はすきにしろといった。すきにしろといわれたのでわたしは髪を切った。
「恋次は残念がるんじゃないの?」
 髪を切ってほしいと松本副隊長を訪ねると、彼女にはそういわれた。
「男って髪、長いほうがすきじゃない。朽木はもともとそんなに長いほうじゃないけど、これ以上切るっていったら男の子みたいになっちゃうわよ。朽木ならショートも似合うと思うけど」
 ちょうど耳元で、しゃきしゃきとはさみが髪を切る音がする。松本副隊長は髪が散らからないようにうすい布をわたしの首に巻いてくれていた。白いそれの上に、わたしのまっくろな髪がはたはたと落ちていく。
「恋次にはすきにしていいといわれました」
「そりゃ、そういうでしょうねぇ」
 そうとしかいえないでしょうねぇ。笑いながら彼女はいって、またはさみを髪にすべらせた。


 髪を切った翌日はおたがいに非番だったので、六番隊舎の恋次の部屋にいくことになっていた。そのあとあんみつを食べに連れていってもらおう、そんなことを考えながら恋次の部屋の扉を開ける。
「ほんっとに切ってやがる!」
 扉を開けた瞬間、恋次が大声を上げた。走るようにして駆け寄り、わたしの肩をつかんでまじまじと顔を――髪を?――見つめられた。
「き、貴様がすきにしろといったではないか」
 松本副隊長がいったように、ほんとうは髪を切らせたくなかったのだろうかと思った。責められるのかとうつむく。うつむいたとき、自分も女なんだなと自覚してますます恥ずかしくなって、顔を上げられなくなってしまった。
「なんだよ、どうした、ルキア」
「……、恋次が、あのとき髪を切るなといえば、わたしは切っていなかったかもしれない……、と思ったら、悔しくてたまらないのだ」
「……、それはうれしい」
 恋次がうつむいたままのわたしのうなじに触れた。そうしてわたしがたぶん一番ほしいと思っていたことばをくれた。
「似合ってんなぁ」


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