その日の副長は大層機嫌が悪かった。普段から眉間にしわを寄せていない副長を目にすることはほとんどなかったが、いつにも増して機嫌が悪かった。すれ違いざまに殴られる、蹴られるなんていうのには慣れている。食事をマヨネーズまみれにされるのにも慣れている。ところがその日はそれどころでは済まなかった。すれ違いざまに目も合わさず唾を吐きかけられ、食事は俺のぶんだけ最初から用意されていなかった。ほかの隊士たちは俺のかわりになることを恐れて見て見ぬふりを決め込む。どこだかの教室のようだと思った。悪質ないじめだ。
 自分の部屋で買い溜めしていたあんぱんを食べながら、どうしたことかと首を傾げた。いまさらなにをされようと大して気にもならない。なにがあったのかは知らないが、自分に当り散らして副長の気が晴れるならそれもよしとしよう。けれどこれがエスカレートして痛い思いをするのもいやなので、なるべく早めに副長の気が晴れるよう祈ることにした。
 しかしいやがらせははじまってほんの三日で俺の命に関わるレベルにまで発展し、おちおち夜眠ることすらままならなくなってしまった。夢の中でさえギロチンの刃が俺に迫ってくるのだ。局長に相談してみたが会話が成立しなかった。買い溜めていたあんぱんが一夜にして灰になりました。廊下でふり向くと刀が首に当てられています。俺が入るトイレにだけ監視カメラが仕掛けてあります。俺がなにをいっても局長は、トシはいいやつだなんていってくる。知らない。
 とうとう屯所から追い出された。俺の部屋は犬を飼うために使われるらしい。
「俺は昔から犬が飼いたかったんだよ」
 うそだ。ついこのあいだ自分は猫派だと熱く語っていたのを俺は知っている。
 夜更けに部屋に呼ばれたかと思うと副長は俺の手の甲を灰皿がわりにして、薄く笑いながらそんなことをいった。白い煙を顔に吹きかけられる。肺に入れたにしては濃くてひどく目にしみた。俺にいやがらせをするためにわざわざ一吸い捨てたのだ。
「そういやァおまえ、女できたらしいじゃねーか。やっと童貞捨てられたんだろ」
 白い煙を吐き出したあとの唇が俺の顎をつたって首筋を這った。
「捨ててませんけど」
「なんだ、総悟のホラか」
 自分の肩のあたりから舌打ちが聞こえた。まさか沖田のホラを真に受けたとして、それに嫉妬をするわけでもないだろうに。するすると襟を開かれて、そこを副長の舌がなぞった。ざりざりと肌をからめとるようにゆっくりと動きながら下へ下へと移動して、へそのあたりまでくると、俺の首に腕を回してきた。そこでようやく据え膳だと気づく。散々受けたいやがらせのことなどもう頭になかった。だってあんぱんはまた買えばいい。

「動きたいんですけど、動いていいですか」
「てめーは黙って勃たせときゃいいんだよ」
 頭上から濡れたような声が降ってきて、それだけで腰がぶるぶる震え出しそうだった。布団を敷きましょうかと提案したがいらんと一蹴された。どうしてかと思ったが、今の状況を見ればそれが理解できる。裸で畳に寝転がるのは俺のほうだからだ。副長の中にペニスをおさめてしまうまえに、俺はすでに一度イッていた。俺の腰に跨った副長が腰を落としてきたとき、触れるか触れないかのところで、興奮が先走った俺はあっという間に果てたのである。情けないと鼻で笑われたが童貞だから許してほしい。
「あつい」
 俺が唸ると副長は満足そうに笑った。腰をよじられて情けなく声を上げる。ぎゅうぎゅうに締めつけられて、二回目もあっという間に果てた。射精しながら奥をえぐるように腰を突き出すとたまらなかったのか、副長は顔を真っ赤にして背中をそらした。

「副長の不機嫌の原因はなんだったんですか」
 ことのあと、聞けば腰をさすりながら忘れたといわれた。自惚れていいんですかねとひとり言に近い意味で口に出す。ところがおもむろに差し出された携帯の画面には、ばかみたいに涎を垂らす自分の顔が、ご丁寧に動画で収められていた。つい数分まえの光景である。アングルから見るに携帯は壁に設置されていたらしいがまったく気づかなかった。
「これでてめーは一生俺の犬だな」
 清々しいほどに憎らしい表情でいわれた。ほんとうにばかだ。動画には自分の顔も声も入っちゃってるってのに。脅すどころか俺のオカズいきだ。
 そのことに気づかれるまえにもう一発いただいておくことにした。もちろん振りほどこうと腕を振り回されたが、上に乗って畳に押さえつければあとはどうってことない。これで明日からもいやがらせは続くけれど、そんなことしなくても俺は元々あんたの犬だったろうに。


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