軍人として舌を噛んでしまうくらいなら、女としてほんの数十分唇を噛んで身を震わせてしまえばいいと俺はいった。
「わたしは剣士です」
「女だろうが男だろうが構いやしねぇ。剣士は剣士でいいだろ」
 連れ込み宿のような薄汚いホテルが並ぶ通りをわざわざ選んで逃げたのではなかったが、気がつけばそこはそういうところだった。気づいた俺は、出会えば怒りと正義感で体を震わせながら俺を殺そうとするくいなに似た女に、ここで死ぬのとこの中で抱かれるのはどちらがいいかと尋ねた。もちろん女はすこし考えたあと真正面から俺に斬りかかろうとしたが、その細い手首をつかみ上げて、部屋に連れ込むのはほんとうにかんたんなことだった。
 鍵を渡された部屋は、この女の処女をいただくにはだいぶ質素で壁も薄く、白昼にも関わらず空気の湿ったかびくさいにおいがした。
「剣士は剣士でいいだろ」
 つぎはぎだらけのベッドに寝かせた女に馬乗りになると、もう逃げられないと観念したのか女はおとなしくなった。シャツのボタンを外してやると、女が苦笑いを浮かべながらいう。やぶられるかと思った。
「てめえ、処女じゃねぇな」
「残念ながら。わたしもいい年ですから」
 めがねを外してぽい、と床に放った。
「残念だ」
 無理やりに女を抱くのははじめてだったが、ひどく興奮した。相手がこの女だからかと思ったがそれ以上考えると萎える気がしてやめた。乳房に噛みついたままジーンズを脱がすと、女が自分で腰を上げたので、思わず胸に頬をこすりつける。恋人ごっこをしているようだった。
「たしぎ」
 セックスしながら名前を呼んだことはいままでに一度だってない。その上、ばかみたいに腰を振りながら何度も、何度も、すきだ、と俺は泣きそうになりながら女にいった。たしぎは一度も俺と目を合わせなかった。
 さすがに膣に射精するのは気が引けたので、ふとももに出した。
「おさまりましたか」
 冷たく低い声が、ほんのり赤い顔とあまりにも不釣合いで、そういうところが軍人には向いていないのだと思った。敵を喜ばせるからだ。
「……、もうちょいだな」
 小さな頭を引き寄せて、首筋を舌でなぞる。汗と肉の味がした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -