やられた、食われた。
「あんた、食には興味ないっていってたくせに、こっちには興味あんのかよ」
「まったく食べないわけじゃないからまったくしないわけでもないよ、こっちも」
 誰でもいいといっているように聞こえるのは気のせいだろうか。口に出すのは格好が悪いかと、黙って薄い背中に腕を回した。額に汗を浮かべている割には冷たいからだに覆われていやに興奮してしまった。興奮している、うれしい、そこそこに気持ちいい、いやそれでもやっぱり痛い。
 保健室、いつものベッドのシーツはセックスするのに向いていない。童貞の俺がそんなことをいうのもどうかと思ったけれど、きめが粗くてぱりぱりしているせいで肌が擦れて不快だった。

「このあとどうすんだよ、めんどくせえ」
「洗ってあげるよ」
「死ね」
 最終の下校時刻を知らせるチャイムが聞こえるころ、彼そのものを表すようなあっさりとしたセックスが終わった。小一時間前夕陽のオレンジ色を映していたカーテンも今では蛍光灯の白さだけを反射して、陽が落ちたのを告げている。まだ六時にもなっていないはずだけれど、ああいやだなこれだから冬は。
 制服を乱され、無機物のようなその手で愛撫をされているうちは、コンドームの着け方やその必要性について耳元で熱く語られるのだろうと思っていた。けれど彼はコンドームを着けもしなかった。寸前に抜いてご丁寧に太ももにぶっかけられた。童貞じゃねえじゃん畜生。
 俺の太ももをティッシュで拭い終えて、ぐちゃぐちゃになった制服をてきぱきと整えられる。いつものハデスになった。
「あんたがまさか生徒に手を出すとは思わなかった。まさか病魔にでも罹ってねえよな」
「予想外の行動に藤くんがどう出るのかなあと思ったんだよ」
 すっぽりとセーターをかぶせられ、大きな手にふわふわと髪をなでられた。おとなしくそのままにさせていると、ほんの少しさみしそうな顔をしてハデスが続ける。
「なにをしても喜んでくれないし、なにもしてほしくないという。手の掛からない子どもが僕はあまりすきじゃない」
「あんたが子どもきらいってことがあんのか」
「あまりすきじゃないってだけ。だから大人として接してみた……、けど、やっぱりまだ子どもだった」
 なにがいいたいのかよくわからなくて俺は視線をそらす。大人として接することがセックスをすることなのか、手の掛からない子どもである俺がいやなのか、聞きたいことはいろいろあったのだけれど。
「先生、送ってくれるんだろ」
 甘え方がよくわからないのでとりあえず、そう口に出してみた。


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