「そういえば名前さ、この前彼氏いるって言ってたじゃん?教えてよー、確か年上だっけ?」

「まぁね」

「うわぁ、いいなー!ねぇねぇどこまでいったの?やっぱり大人だから上手かったんでしょ?きゃー!男の人の前だと何も喋れなくなっちゃうあのウブな名前がそんなとこまで!!」

お店の中でそんなにきゃあきゃあ騒がないで

彼女は頼んだ苺ショートの苺をつつきながら目をキラキラさせて私を見つめた

「話が早いなぁ、何でいきなりそん な質問なのよ」

「もー、焦らさないで教えてよー!何? 彼の部屋で?いつ?昨日?え?どんな風 に『された』の?」

止まらない彼女の質問攻めに ちょっと笑って、スプーンを手に とってパフェの天辺のブラウニー をグラスの脇に寄せた

好きなものは最後に食べるのが私 だから

それからスプーンを奥まで突っ込 むと底の方のコーンフレークが砕 ける音がした

「え?何?違うの?」

スプーンを返すとスプーンの先に チョコレートのアイスやら生ク リームやらがくっついてきて、とり あえず舐めた
彼が大人っていっても こんな甘くなかったんだよ

「どっちかっていうと、こっち」

飾りのぺらぺらしたオレンジを指 で摘まんで口に放った

チョコレートの甘さとのコントラ ストか

あー、甘酸っぱい。

彼は見た目どうり見栄っ張りだか ら、その日は私を夜景が綺麗に見え るホテルの一室を借りてそこに連 れて行ったの

普通の学生の私が普段絶対食べな いような食事を食べさせてくれて、 その時も最後にチョコレートブラ ウニーのパフェを頼んで食べた

最後に食べたブラウニーがいつも 食べてるのよりずっとしっとりし ててちょっとお酒っぽかった

それから彼がソファーに座って一 息ついていたから私が隣に腰かけ たら彼の肩がちょっとだけ跳ねた

「ヘルベルトさん?」

私が呼んでも彼は絶対にこっちを 見なかった

「用もないのに呼ぶんじゃない」

あれ?もしかして緊張してる? 気づいたのはこの時で

そんな彼が何だかちょっと可愛い というか可笑しくて少しだけ笑っ ちゃった

「何が可笑しい」

やっとこっちを見たと思ったら、眉 間に皺を寄せて怒った素振りを見 せるけど、美白な頬が薄暗いオレン ジ色の部屋でも分かるくらい紅色 だったから威厳なんか全然無い

「別に、何でも無いよ」

そう言って彼の肩に頭を預けてみ ると彼が少し呻いた そんなに意識しなくても、って思っ た

「ねぇ、ヘルベルトさん」

「何だ」

「キスしてよ」

それは本気で言った訳じゃないの 緊張して、照れまくる彼が面白くて ちょっとからかっただけなんだけ ど

「いいだろう」

彼は私の方に向き直って得意気な 笑みで言ったつもりだろうけど頬 が少しひきつってた

彼は私の肩に両手をかけて 私は目を閉じた

でも一向に口が塞がれないから目 を開けると目の前で難しい顔をす るヘルベルトさんがいて、私は笑っ た

「早く」

「うるさい!急かすんじゃない」

そうして私は再度瞼を閉じた そうしたら鼻に何かがぶつかって

多分彼の鼻だと思う

再度目を開けると案の定、筋の通っ た彼の綺麗な鼻だった

「ふふ」

「笑うな、何が可笑しい!」

それ、さっきも言ったよって思いな がら私は一回彼から離れて自分の 腕を彼の首に回した

「正面からだと鼻がぶつかって邪魔 でしょ?知らないの、ヘルベルトさ ん?」

それで私は少し首を傾けて彼に口 づけた こうやってやるんだよって

話し終わる頃には彼女のショート ケーキの外観は全く変わってない けど、私のパフェの天辺のソフトク リームはすっかり溶けていた

「名前が...」

彼女は唖然と口を開けて私を見て 言った

「男の人前だと何も喋れなくなっ ちゃうようなあの名前が自分 から年上の彼にキスの指南ですっ て!?」

「彼の方が何枚も上手(うわて)にウ ブだからしょうがないよ」

「も、もしかしてその調子だとその 先も名前がリードしたって感 じ?」

「ん?教えなーい、秘密。」

「えぇっ!?何で何で!気になるよ!!」

誰にも見せない君の秘密

本当はその後何にも無かったんだ よ だから甘酸っぱいんだって

本当は苦しいくらい緊張してた だって私も初めてだったし 私だってそんなに上手くない

本当は彼女に秘密にすることなん て何も無いんだけど ちょっと大人ぶってみたっていう のは ヘルベルトさんにも彼女にも

秘密。





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