雲の動きが速い。

ああ、まるで汚物を流している時のトイレのようだ、等と悪態をつきながら、私は自転車を漕いでいた。


生温い風が顔面を直撃し続けて十分くらい経った時だった。

突然、頭に刺すような痛みが起きたかと思うと、すぐさま視界が反転し、訳が分からない内に、私は地面に横たわっていた。

目の前では私の自転車も、前輪を回しながら同じように横になっている。

なるほど、私は転倒してしまったようだ、どうやら。

幸い、辺りを見回しても誰もいなかったので、私が羞恥を感じることはなかった。

けれど、起き上がろうとすれば、打ち付けた左半身に鈍痛が走り、再度コンクリートと向かい合う羽目になってしまった。


前輪はもうすでに動きを止めている。

さながら私に立たせてもらうのを待っているようだ。

せめて通るかもしれない通行人の障害物とならない程度に道端に寄せてあげたいのだけれども、いかんせん、頭痛は消えたとしても左半身が言うことをきいてくれない。

よって自転車を立たせてあげる以前に、自分が立つことも出来ない。

もし此処で誰かが通ってしまえば、私が精神的満身創痍になることは確実である。


どうこう考えている内に、左半身の痛みは大分和らいでいたようで、試しに力を入れてみれば、容易く立ち上がることが出来た。

尻を叩きながら自転車の下へ行き、ゆっくりと起こす。

壊れている部分は見たところ無いようなので、私は小さく息を吐いてから辺りを見回した。


通行人は一人もいない。


空には雲が隙間なく詰め込まれていた。






10.08.**





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