都市の発達と言語の進化は比例している。 彼の隣りで、しわの目立つ老婆はそう言った。 雨はまだ止みそうにない。 少し肌寒いバス停の屋根の下、木が腐りかけている長椅子にこぢんまりと彼と彼女は座っている。 彼女が第一声を発してからは、沈黙が蘇ることはなかった。 ゆっくりと丁寧に言葉を紡いでいる彼女の声だけが、未だに小さく響いている。 それに、彼は返答どころか相槌すら打とうとはしない。 ただ波紋が広がっていく水溜まりを直視して、口を堅く閉ざしていた。 雨音が小さくなってきたところで、ようやく遠くから車特有のエンジン音が混ざって聞こえてくる。 老婆は口を閉じない。 結局、会話が成立することはなく、彼は静かに停車したバスへと乗り込んだ。 空席だらけの窓側に、何事も無かったかのように着席する。 後ろの方に座っていた数人の女子高生の会話が車内に響いて、その直後に運転手野太い声が彼の鼓膜を振動させた。 扉が閉まる。 一瞬、身体が後ろに引っ張られる。 バスが発車する。 再度、楽しそうな会話が聞こえてくる。 老婆は乗車しなかった。 一人、長椅子に老婆が座っていた。 まるで古びた都市に林立する使い古された雑居ビルのように――彼はぼんやりとそう考えた。 10.10.31 |