無意識に自らの知識を使えるからこそ、私達は言葉を使うことが出きるのだ、と彼は歪に曲折した文字を私に突き出した。

スケッチブックから弾け出そうな程にでかでかと白紙に乗ったそれは、油性のペンで書かれたためか、紙の裏にまで写ってしまっている。


私はスケッチブックを受け取らずに、代わりに自分の鉛筆を差し出した。

一瞬の間が開いて、彼はペンを握っていた手を開いて鉛筆を受け取る。

私はペンを受け取った。

鉛筆と一緒にスケッチブックも引っ込めた彼は、しばらく白紙を眺めていた。

沈黙が居座る中で、私も彼も口を開こうとはしない。

私は彼を凝視したまま、彼は白紙を見つめたまま、その場に居座っていた。


そろそろ眼球が乾いてきた、と私の唇が動くのと、彼が鉛筆を走らせ始めたのは同時だった。

けれども、芯が紙を滑る音と自分の声が重なることは無く、私は言葉を飲み込んだ。

ぐん、と喉が上下すれば、少量の唾だけが食道を駆け落ちていく。

私は彼から目を逸らさない。

文章に丸を添える彼の姿が視界に収まっている。


私は目を見開いた。

いつの間にか視界には、彼の歪な文字が収まっていた。

顔面に押し付けられる形で強制的に渡されたスケッチブックを遠ざければ、嬉々とした表情の彼が至近距離で座っているのが見える。

私は気にせずに目線を真下へと降ろして、今度は鉛筆で書かれた文章を黙読した。

相変わらず、画面に入りきってはいなかった。



「分からない」



一言、声が部屋に反響するのを確認してから、私は滲んで反転した一つ前の文章を視界に入れる。


すとん、と言葉が胃に落ちた気がした。






10.11.20






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