限られた空間の中だからこそ、虚構も現実になり得るのだと、彼は音も立てずに紅茶を啜った。

その様子を眺めていれば、何故か僕の喉が徐々に干からびていくような感覚が脳髄をついて、思わず僕は波々と注がれた紅茶を一気に飲み干した。

部屋の中では、僕が紅茶を飲み流す音だけが響いている。

彼はそんな僕を見ているだけだった。



段々と喉が平穏を取り戻してきた頃、彼はようやく僕から目線を外して、再度静かに紅茶を啜り始めた。

それをみた僕は視界に収める。

喉が渇いてくる。

僕の紅茶はもう無い。

お代わりも無い。

彼がテーブルに食器を置く。

僕と彼の視線が、合致した。



「もう、行くのか」



僕が開口したのと、彼が起立したのは同時だった。

彼は鼓膜に入っていたはずの言葉に返答しないまま、足音も無く僕の隣りへと移動してくる。

彼は僕を見下ろした状態で微笑する。

僕は彼を見上げた状態で、背後に設置された扉を指差した。

その時、彼の笑みが深まったように見えたのは、恐らく気のせいではないだろう。



彼が僕の横を通り過ぎた後、僕はふと、彼の使っていたコップを視界にいれた。

中には波々と注がれた紅茶と僕がいる。


自分しかいない部屋を見渡して、彼は確かに存在していたのだと、僕は彼の紅茶を飲み干した。






11.11.14





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